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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十九章 恋喰う肉塊
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夜道を歩く

「おい、待てよ楓」


「待てない」


 コートを着て外に出ようとする楓を、相馬が腕を掴んで止めている。


「確かに連絡がないのはおかしい。けど、お前まで二の舞いになったらどうするつもりだ」


「英治のことだけじゃない。英治が敵わないとなれば、一般市民も危ないのよ」


「それはそうだが、お前はもう二児の母だ。もう少し落ち着きをだな……」


「こんな時に落ち着いていられるか!」


 楓は、相馬を振り切って外へ向かって歩き始めた。


「まあ、待て。俺に考えがある」


 相馬はそう言うと、ポケットからスマートフォンを取り出した。楓は足を止めて、振り返る。

 相馬はスマートフォンを操作すると、耳にくっつけた。電話をかけているらしい。


「ああ、小豆か? 今日は俺も楓も残業が入って帰れない。有栖と一緒に料理作っといてくれるか?」


 小豆が料理が得意とは聞いた覚えがない。

 それでも相手は了承したようで、相馬は頬を緩めた。


「ああ、ああ、頼んだ。じゃあ、程々に帰る」


 そうして、相馬は電話を切った。


「俺もついていくよ。触手が厄介な敵らしいから、遠距離狙撃型の俺でも役に立つだろう」


 そう言って、相馬は警察署の外まで移動して楓を抱きかかえると、高々と空を飛んだ。


「見えるか?」


「暗くてよく見えない」


「俺にはよく見える。空を移動しつつ敵を探すぞ」


「了解」


 楓は相馬の協力を信じたようで、大人しく従った。



+++



「待ってましたよ、翠さん」


 そう言って、アラタは体を起こした。

 場所は、病室。

 響が椅子の上で舟をこいでいる。


「異常は?」


「全身の痺れと、手に力が入らない」


「重症ね。触手の残骸が毒を放っているのかしら」


「でしょうね」


 アラタは、そう言って、翠に手を差し出した。


「お願いします、翠さん」


「わかった」


 翠は、自分の胸の少し前の空間を掴んでなにかをつまみ上げると、アラタの手に託した。

 その瞬間、アラタの中に新たな力が湧き上がってくる。


 アラタは、短刀を握りしめると、自らの腹に突き立てた。


「不条理の力、応用、中断ち!」


 肉の焼ける臭いが周囲に漂い始める。これはただの短刀ではない。翠から借りた炎の力を籠めた短刀なのだ。

 そして、アラタは短刀を腹で一回転させた。

 短刀を抜くと、そこには傷跡一つない。


「よし……」


 脂汗だらけの表情で満足気にそう言うと、アラタは枕に後頭部を埋めた。

 翠は慌てて治癒のスキルを使う。


 アラタの表情が徐々に和らいでいく。


「今回の敵には俺の力が必要だと思うんです」


 アラタは、意を決したように言う。


「病み上がりで大丈夫なの?」


 翠は懐疑的だ。


「歩きましょう。夜道を。僕達にスキル『主人公』が本当に備わっているなら、会えるはずだ」


「私はあるかどうかわかんないんだけどね」


 翠はそう言いつつも治療を続ける。


「まあ、乗りかかった船だ。付き合うよ」


 翠は穏やかに微笑み、それにほだされたようにアラタも微笑んだ。



第十話 完



次回『目撃証言』

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