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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十九章 恋喰う肉塊
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歩が飛車を喰らう時

 その生物がアラタの下に現れたのは、突然だった。

 授業中、いきなりクラスの扉が開いた。

 文句を言おうとした教師が、絶句する。


 そして、クラスの大半が腰を浮かせた。

 窓際の席のアラタも、立ち上がって乱入者を視認した。

 それは、肉塊だった。


 人を不快にするために作られたような、醜悪な生物。

 目と口が、体の模様のようについていた。

 一番に反応したのは、アラタだった。


「皆、逃げろ!」


 アラタはそう言って、鞘から日本刀を抜いた。

 悲鳴と足音が徐々に遠ざかっていく。そして、アラタと肉塊は取り残された。


「お前か。最近近隣で暴れてる奴っていうのは」


「……き」


「なんだ? はっきり言え」


「響……」


 その名前に虚を突かれて、アラタは一瞬反応が遅れた。

 そして、肉塊が触手を伸ばした先を見て絶句した。

 まだ、女子生徒が逃げ遅れている。

 腰を抜かして、口を抑えて必死に声を殺している。


 アラタは、不条理の力を使って一瞬で女性生徒の前に立った。

 そして、触手を破壊しようと刀を振るった。


 一手、遅かった。

 触手は、アラタの腹部に突き刺さり、、背中までをつらぬいた。


 アラタは触手を斬って、背中から肉片を引きずり出そうとする。

 しかし、引き抜けない。

 触手はアラタの体に吸い付いたように、離れない。

 いや、それどころかそれはアラタの体の内部を複数の尖端によって掘り進み、完全に侵食しようとしていた。


「これは、歩で飛車を取っちゃったかしら」


 その場に現れて、愛しげに肉塊を撫でたのは、あの古城跡地で楓の結界を破った古代の巫女。

 勾玉が緑色に光っていた。


「なにが目的だ……」


 アラタは体がしびれて、自由が効かなくなってきたのを感じながら、刀だけは構えていた。


「戦力を削る。正直言ってあなた達の戦力は脅威よ。それを削ぐために、私は手段を厭わない」


「響を狙う気か……」


「あなたの同居人ね」


 巫女は、妖しく微笑む。


「すぐに一緒にしてあげるわ」


 アラタは歯を食いしばると、刀を腹に突き立てた。

 そして、伸び続けている触手を断っていく。

 その壮絶な光景に、巫女は絶句したようだった。


「不条理の力、応用。中断ち」


 しびれが消え、アラタの体に自由が戻ってくる。

 傷の痛みは消えない。しかし、少しぐらいならば動くことも可能そうだった。


「ここで決着をつけようじゃないか、巫女さん。フォルムチェンジ!」


 そう唱えた瞬間、アラタの体は白いフルフェイスヘルメットとスーツに包まれる。

 そして、アラタは刀を構えて、机を吹き飛ばし、一瞬で巫女との距離を詰めた。


 そして、刀が首を断たんとした時、巫女は肉塊と共に舌打ちを残してその場から消えていた。

 アラタは、刀を肩に担ぐ。


「逃した、か……フォルムチェンジ」


 アラタは元の姿に戻ると、楓に電話した。

 短く事情を伝える。


「私のスキルキャンセル能力と救急車と記憶処理班が必要ね。了解了解」


 楓は手慣れているらしく、対処は早かった。

 出血が酷い。アラタの意識は朧気になっていった。




第七話 完

次回『鳴らない電話』

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