ミカの暗躍
「やあ」
私はアラタ邸の道場に入った。
正座をしていたアラタは、表情を緩めて座布団を勧めた。
私は大人しく、その上に座る。
「珍しいわね。勇気ちゃんとつるんでないの」
「今、あいつは東京だ」
「へえ、東京」
「セレナとか連れて行ってるらしい。まあ甲斐甲斐しいことだな」
「私も行きたかったなあ、東京旅行」
「今度バイト代で連れてったろか」
「いいよ。私もバイトしてるから。デートと下見に行こう」
「そうだなー。そろそろ下見ぐらいはしとかないとな」
「行きたい場所見繕っとくよ」
沈黙が漂った。
「どうしたの?」
私は不思議な思いで問う。
「いやな。勇気達がなにか企んでる気がしてな」
「そういうのはアラタの専売特許じゃない」
呆れ混じりに言う。
「そうかもしれん。考え過ぎならいいが……」
「ただの東京旅行だよ。確かに面子は妙だけど」
「そうだな。そうあってほしいよ」
アラタはそう言って、竹刀を一本私に手渡した。
「稽古、つけてやるよ」
「珍しいね」
「今、お前の高校は危険地域に指定されているからな。義兄さんにも護衛に割く時間を増やしてもらわないと」
「……私が決着をつければよかった」
「過ぎたことを言ってもせんないよ。反省を背負って次に活かせばいい」
「それもそうね」
私は立ち上がって、竹刀を構える。
アラタも、立ち上がった。
+++
肉塊は、アラタ邸で行われていることを全て察知していた。
竹刀と竹刀のぶつかりあう音。
調理の音。
できあがっていく食事の匂い。
それらを羨ましく思ったのか、肉塊は呻いた。
ミカは、その頭を撫でる。
「そうね。お腹が空いたわね」
肉塊はそうだとばかりに鳴く。
「大丈夫よ。すぐに食べさせてあげるから」
そう言って、ミカはワープする。
この肉塊が響を食って、アラタを食えば、不安材料が一つ減る。
しかし、こんな出来損ないに頼らなければならないとは、ミカサイドの戦力不足は重症だ。
皆、逝ってしまった。ある者は翻意して。ある者は敗れて。
せめて、精霊獣クラスの戦力は欲しいと思うミカだった。
それには、ゲートの先にある力が必要になる。
ミカは暗躍する。
第五話 完
次回『俊介青年の恋』




