東京旅行
「ねえ、お母さん」
「んー? なあに?」
セレナの問いに、翠は味噌汁の味を見ながら答える。
「週末、東京へ行こうと思うんだけど」
翠は、お玉を置いた。
「お金はどうするのよ」
「バイトで稼いだ」
「エレンちゃん達も一緒?」
「うん。勇気さんが保護者してくれるって」
「うーん、そうねえ」
翠はしばし考え込む。
バイトをしてまで望んだ旅行だ。邪魔をするのも悪い。
勇気もボディガードとしては十分な実力者だろう。
「いいわよ、いってらっしゃい」
そう言うと、セレナは表情を緩めた。
「ありがと」
セレナは駆け足で部屋に戻っていく。
(なんかアラタくんもだし、皆東京に出たがるわね)
「そりゃ、ここ田舎だもんさ」
歩美の言葉に、私は反論の言葉を失った。
(それも、そうかもね。私は好きだけど。自分の故郷で)
「セレナだって好きだと思うよ。けど、暮らした月日が多少短すぎたね」
(うーん。東京行かれたらボディーガードができないなあ)
「そんな先のこと考えても仕方ないよ」
私はしばらく黙り込む。
(それも、そうね)
そして、私は調理に戻った。
+++
「準備はいい?」
「いつでも」
「どこでも」
エレンの問いに、セレナとエレーヌは調子を揃えて答える。
思わず苦笑するエレンだった。
「それじゃあ行くわよ。アポはもう取ってあるから」
「流石エレン。ぬかりないわね」
セレナは呆れたように言う。そして、言葉を続けた。
「私達も、壁を越えよう」
三人は、警視庁へと進んでいく。
+++
「おや?」
上座の老人が戸惑うように片眉を上げる。
乱入者は、礼をすると、道場の中に入ってきた。手には、刀がある。しかし、まだ若い少女のように見えた。
「ここまでには何人ものボディーガードがいたと思うが」
「全員、気絶させてきました」
「ほう……」
老人、第一席は面白いとばかりに腰を上げる。
「刺客の類か?」
「いえ」
少女は刀を構える。
「私は園部勇気。一手、ご教授願いたい」
「ああ、アラタくんの弟子か。面白い。今、八席には空席が一つある」
勇気は息を呑む。
「しかし、軽々と与えられるとは思わぬことだ」
そう言って、第一席は仕込み杖から刀を抜いた。
第四話 完
次回『ミカの暗躍』




