現場検証
「ここで、その肉塊に襲われたのね?」
楓は何故か婦警服を身に着けてやってきた。
横には翠と葵の姿もある。
私は頷いて、その道を辿っていった。
「最初は、足に手を伸ばされたと思ったんですよ。けど、その後も追ってきて。この辺りで火球をぶつけたら追ってこなくなりました」
「ふむ……」
楓は顎を擦ると、手で葵を呼び寄せた。
「ここ、サイコメトリーしてくれる?」
「どこですか?」
楓は地面につく寸前まで指を伸ばして示した。
「ここ。緑色の体液が出てる。火球のダメージね」
葵は手をかざして、しばし目を閉じた。
「これは、響さんの恋愛感情に反応を示していますね」
葵は、そう言った。
「恋愛感情?」
私は、戸惑うしかない。
「恋愛感情を味わいたい。捕食したい。そんな思いが見て取れます」
「……トドメ、さしとくべきだったか」
私は悔いる。
「高校なんて恋愛話の宝庫ですよ。その近くにあんな捕食者がいるなんて」
「しばらくは超対室で警備する必要がありそうね」
楓は嘆くように言う。
「翠、私報告書作りに先に行くから、もう少し調べてって。車は置いてく」
そう言って、楓は去っていった。
「……食って、どうする気なんでしょう?」
私は、戸惑うように言う。
「味を覚えさせないことだ」
翠は、淡々とした口調で言う。
「人間の味を覚えた野生生物は、また人間を襲う」
あの魔物を野生生物と一緒にするのは気が引けたが、確かにその通りだろう。
+++
その日、水月は珍しい人物からの手紙に気がつき、胸が弾んでいた。
手紙の差出人には、青葉、とある。
息子の名前でもあるが、その父親の名前でもある。
手紙を開く。
『水月。僕はもう当分過去に行けそうにない。僕の介入によって時空間に歪みが生じていることが発覚したからだ。同じ一年が何度か続いたりした形跡がある。そして、そんな状況で心苦しいが、聞いてほしい。僕の度重なる時間改変は、最悪か、最高か、どちらかの結果を残すことになりそうだ』
水月は息を呑んだ。
そして、一度手紙の便箋を封筒に戻した。
封筒には、結構な厚みがあった。
第三話 完
次回『東京旅行』




