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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十九章 恋喰う肉塊
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恋わずらい

今週も土曜日更新です。十一話分になると思います。

 夕方の教室で、編み物にふける。

 この時間帯は邪魔が少なく、吹奏楽部の奏でるメロディが作業用BGMになり手も進む。

 完成まで、あと少しだった。


「よう!」


「ん?」


 声をかけられて、私、響は顔を上げた。

 そして、声をかけてきた相手を見て、今日はここまでかと苦笑したのだった。

 編んでいた物を片付けて巾着に入れる。


「なんか編んでたの?」


「マフラー」


「へえ。彼氏に?」


「うん、まあ、そう」


 少し照れくさい思いをしながら答える。

 相手、同じクラスの俊介は微笑ましげにそれを見ていた。


「いいよなー、響は相手いて」


「俊介にもそのうちできるよ、相手」


「だといいけど」


「だって俊介、いいヤツじゃん」


 俊介はしばし言葉を失ったように考え込む。

 その表情が少し楽しんでいるように見えるのは気のせいか。


「まあ、俺は王剣みたいな肩書はないけどな」


「肩書なんて関係ないよ。当人同士の思いの問題だもん」


「相手は進学何処にするの?」


「東京」


 私は頬杖をついて、苦笑した。


「そっか。けど夜行バスとか使えばちょくちょく帰ってこれるだろう」


「そうなんだけどね。距離が開くとちょっと心細いわ」


 それは、紛うことなき私の本音だった。


「大丈夫大丈夫。一年なんてすぐさ。相談なら俺も乗るしさ」


「バイト入れようと思ってる。私も東京行きたい」


「ラブラブだねえ」


 俊介は肩をすくめた。


「からかわない」


 そう言って、私は俊介の肩甲骨を叩く。

 マフラーはもう少しでできあがる。

 二月になってマフラーというのもなんだが、思い立ってしまったのだから仕方がない。


「んじゃ、そろそろ帰るかな」


 そう言って、私は腰を上げる。


「もうかよ。付き合い悪いな」


 俊介は不服げに言う。


「早く帰らないと育ち盛りの二人が帰ってきちゃうからね。晩御飯の手伝いしないと」


「上手くやってんのな」


 若干やっかみがこもった声で俊介は言う。


「また、遊びに付き合うよ」


「おう。皆でどっか行こう」


 そうやって、私達は教室で別れた。

 帰り道、妙なものを見た。

 一言で表せば肉塊だ。それが、蠢いて道路を歩いている。

 咄嗟に、避ける。その触手が、私の足に向かって伸びた気がした。

 気がつくと、通り過ぎていた。


 今のは、なんだ。

 振り返ると、それは追いかけてきていた。

 全力で自電車をこぐ。

 しかし、肉塊は見た目にそぐわぬ素早さで追いかけてくる。


「チッ」


 私は舌打ちをして、火球を放った。

 肉塊はそれを受けると、萎縮するような声を上げて、追っては来なくなった。


 私はしばらく走って休憩を取ると、楓へと連絡した。



第一話 完



次回『ミカに関する情報収集』

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