第三席と第五席
巴と藤子は夜の飲み屋に来ていた。
慣れない席なので、巴は小さくなるばかりだ。
「ほら、なんでも頼んでいいのよ。ここはお姉さんのおごりだから」
「そんな。私も半分出しますよ」
「いいのいいの。遠慮しないで」
気前の良さに、巴は喜ぶよりも一抹の不安を感じた。
「アラタくんはどうでしたか?」
「まだ粗い。けど、磨けば私達を超える可能性を感じる」
「私もです」
巴は微笑んだ。弟子が褒められるのは悪い気分ではない。
「あれで結構のんびりした子なんですよ。ピリピリして注意力散漫になってた私にクレープ差し入れしてきたり」
「それ、気があるんじゃないの」
予想外の言葉に、水を飲んでいた巴は咳き込んだ。
「そんなんじゃないですよ。あの子はそういうのじゃないです」
「わかんないよー」
「婚約者もいるんですよ」
「火遊びしたいお年頃じゃん」
「やめてくださいよ、もう」
「けどね。私は巴ちゃんのジャニーズよりも質実剛健な人が好きだって言ってたの、ああこれかって腑に落ちたわ」
「勝手に腑に落ちないでくださいよ……」
巴は溜息混じりに言う。
「まあ、恋バナはおいおい聞くとして」
「出てきませんよ」
「注文しましょうか」
「そうしましょう」
そう言って、二人はメニューに目を通し始めた。
+++
「一生かの地にいるのかと思ってひやひやしたぞ」
「それもいいかと思ったのですが、自分の使命を思い出し戻った次第です」
第一席と藤子は道場で向かい合って座っていた。
「なにか、得たことはあるか?」
「巴ちゃんが言ってた弟子。あれは逸材ですね。不条理の力をどんどん使いこなしてきている」
「ふむ。結構なことだ」
「しかし、悪い知らせもありまして」
「と言うと?」
「アラタくんの家に刺客が送られています」
第一席は黙り込み、髭をいじった。
「首都八剣のいずれかの者の仕業と思うかね」
「そこまでは。しかし、ソウルキャッチャーが一人を捕縛したので、時間の問題かと」
「ふむ……」
第一席は立ち上がり、咳き込みながら日光の差し込む位置に歩いていく。
「お主、巴、新しい風がふこうとしている。その芽を積むことは許されることではない」
「はっ」
「お主も身辺、気をつけるように」
「はっ」
「今日から通常業務に出てもらうがな」
「私、おじいさんの人使いの荒いところ好きですよ」
「馬鹿を言え」
咳をしながら、第一席は笑った。
第七話 完
次回『不思議な関係』




