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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二章 冒険を、望んでいた
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「そんな……そんな……」


 僕は、言葉を失う。

 四桁を超える被害者を出しているソウルイーター。その一人が、響だという。

 響は僕の前で、切なげに俯いていた。


「嘘だろ?」


「本当だよ?」


「じゃあ、俺達を追いかけてたのは……」


「警察の超越者対策室」


 沈黙が漂った。

 なにを言えばいいかわからなかった。

 なにを言っても、重い一言になるのはわかっていたから。


「人を、殺したのか?」


 僕は、心音が高くなっていくのを感じた。

 頷かないでくれ。そう祈る。

 その祈りは、虚しく通じなかった。

 響は、小さく頷いた。


「一度だけ」


 僕は、世界が歪むのを感じていた。

 けど、こうも思う。

 ホテルに現れた氷使いのソウルキャッチャー。一歩間違えれば、彼女を殺していた。

 事情があるなら、納得できる。


「……なんで、殺したんだ」


 響は空を見て、苦笑混じりの表情になる。


「母親が、ヤミ金で借金しててね」


「うん」


「ついに支払えなくなって、体を対価にしろと言われた。だから」


 そこで、響は言葉を切る。


「殺した」


 僕は、なにも言えなかった。

 僕が響の立場だったらなにをするだろう。きっと、足掻くはずだ。その結果が、誰かの死につながろうとも。


「それ以外は殺してないのか?」


「私がそんな快楽殺人者に見える?」


 響は僕の顔を見て、苦笑した。


「超越者のスキルを奪っていた。ノルマは一月十個。お父様と呼ばれている私達にソウルイーターの能力を与えた人に見せることが条件だった」


「そっか。だから、回復のスキルと熱操作のスキルを両立できてたんだな」


「うん」


 沈黙が漂った。

 互いに、なにも言えなかった。

 何分経っただろう。響が、口を開いた。


「ごめんね。私のせいでお尋ね者だ」


「日常に、飽き飽きとしていたんだ」


 僕は、呟くように言った。


「小説や漫画ではヒーローが活躍している。けれども俺はどこまで行っても一般人でしかない。俺は世界を憎み、世界を恨んでいた」


 僕は、響の手を取る。


「君が連れ出してくれたんだ。俺を、退屈な日常から。俺は、君が望むのならダークヒーローにでもなんでもなってやる!」


「アラタ君……」


 響の額が、僕の胸に触れる。

 僕は、その背を抱いた。


「辛かったな。いつか、日本の外に飛び出そう。どこかで、安全に暮らそう」


「うん……うん」


 響の声は、涙に濡れていた。


「で、響はなにを目指しているんだ?」


 響は、目の涙を拭うと、僕の胸から顔を離して僕を見上げた。


「現在捕縛されたソウルイーターは三人。今日で四人になっちゃったけど……」


「うん」


「生まれた場所が一緒なのよ」


 その一言に、僕は戸惑った。


「三割のソウルイーターが同じ場所で生まれたっていうのか?」


「五割ね。あの男の人にも聞いて確認したし、私もそこで生まれている。年齢も、近い人ばかりだった」


「その数値は、異常だな……」


 各地に散っているソウルイーター。その生まれた場所が一緒だというのはできすぎている。


「だから、私は知りたい。私の出生の秘密を。そして、確認したい」


 響は、俯いて、小さな声でいう。


「私が、母さんの子供だって」


 なんて言葉をかければいいのだろう。わからなかった。

 だから、僕はもう一度響を抱きしめた。


「連れて行ってやる。俺が、必ず」


 響も、僕を抱きしめ返した。


「うん。頼んだよ、私のヒーロー」


 月夜が、僕達を見ていた。

 この日、僕は、二人の絆が深まるのを感じていた。




今週の投稿はここまでになります。

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