響
「そんな……そんな……」
僕は、言葉を失う。
四桁を超える被害者を出しているソウルイーター。その一人が、響だという。
響は僕の前で、切なげに俯いていた。
「嘘だろ?」
「本当だよ?」
「じゃあ、俺達を追いかけてたのは……」
「警察の超越者対策室」
沈黙が漂った。
なにを言えばいいかわからなかった。
なにを言っても、重い一言になるのはわかっていたから。
「人を、殺したのか?」
僕は、心音が高くなっていくのを感じた。
頷かないでくれ。そう祈る。
その祈りは、虚しく通じなかった。
響は、小さく頷いた。
「一度だけ」
僕は、世界が歪むのを感じていた。
けど、こうも思う。
ホテルに現れた氷使いのソウルキャッチャー。一歩間違えれば、彼女を殺していた。
事情があるなら、納得できる。
「……なんで、殺したんだ」
響は空を見て、苦笑混じりの表情になる。
「母親が、ヤミ金で借金しててね」
「うん」
「ついに支払えなくなって、体を対価にしろと言われた。だから」
そこで、響は言葉を切る。
「殺した」
僕は、なにも言えなかった。
僕が響の立場だったらなにをするだろう。きっと、足掻くはずだ。その結果が、誰かの死につながろうとも。
「それ以外は殺してないのか?」
「私がそんな快楽殺人者に見える?」
響は僕の顔を見て、苦笑した。
「超越者のスキルを奪っていた。ノルマは一月十個。お父様と呼ばれている私達にソウルイーターの能力を与えた人に見せることが条件だった」
「そっか。だから、回復のスキルと熱操作のスキルを両立できてたんだな」
「うん」
沈黙が漂った。
互いに、なにも言えなかった。
何分経っただろう。響が、口を開いた。
「ごめんね。私のせいでお尋ね者だ」
「日常に、飽き飽きとしていたんだ」
僕は、呟くように言った。
「小説や漫画ではヒーローが活躍している。けれども俺はどこまで行っても一般人でしかない。俺は世界を憎み、世界を恨んでいた」
僕は、響の手を取る。
「君が連れ出してくれたんだ。俺を、退屈な日常から。俺は、君が望むのならダークヒーローにでもなんでもなってやる!」
「アラタ君……」
響の額が、僕の胸に触れる。
僕は、その背を抱いた。
「辛かったな。いつか、日本の外に飛び出そう。どこかで、安全に暮らそう」
「うん……うん」
響の声は、涙に濡れていた。
「で、響はなにを目指しているんだ?」
響は、目の涙を拭うと、僕の胸から顔を離して僕を見上げた。
「現在捕縛されたソウルイーターは三人。今日で四人になっちゃったけど……」
「うん」
「生まれた場所が一緒なのよ」
その一言に、僕は戸惑った。
「三割のソウルイーターが同じ場所で生まれたっていうのか?」
「五割ね。あの男の人にも聞いて確認したし、私もそこで生まれている。年齢も、近い人ばかりだった」
「その数値は、異常だな……」
各地に散っているソウルイーター。その生まれた場所が一緒だというのはできすぎている。
「だから、私は知りたい。私の出生の秘密を。そして、確認したい」
響は、俯いて、小さな声でいう。
「私が、母さんの子供だって」
なんて言葉をかければいいのだろう。わからなかった。
だから、僕はもう一度響を抱きしめた。
「連れて行ってやる。俺が、必ず」
響も、僕を抱きしめ返した。
「うん。頼んだよ、私のヒーロー」
月夜が、僕達を見ていた。
この日、僕は、二人の絆が深まるのを感じていた。
今週の投稿はここまでになります。




