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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十八章 第三神将は暴れるのがお好き
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第三神将、去る

 その日の朝、第三神将藤原藤子は大輝の運転する車に乗って駅に向かった。

 僕と、勇気も見送りに来ている。


「アラタくん。修行を怠らないように」


「はい」


「今より強くなって、東京に来なさい」


「わかりました。必ず、実力をつけて向かいます」


「それでこそ、私の弟子です」


 藤子が朗らかに微笑んだのがミラー越しに見えた。


「ところで勇気ちゃん」


「はい」


「東京へ来る気はありませんか? あなたが加われば首都八剣はなお強固なものになる。そんな気がするんです」


「恐れ多い言葉です」


 僕は、勇気の切ない言葉を思い出し、数秒何も喋れなかった。


「正直、揺れています。東京へ行ったほうが、私は強くなれる」


 思いもしない言葉だった。

 彼女も剣士。

 強くなれる機会を失うことを惜しんでいるのだろう。


「いらっしゃいいらっしゃい。あなたなら首都八剣になるのもすぐよ」


「そんなに簡単になれるものなんですか?」


 僕は戸惑い混じりに問う。


「六席以下は正直有象無象です。家系だけは古い旧時代の遺物ですよ」


「なるほどなあ……」


「東京に来る日の前に電話をなさい。出迎えてあげますよ」


「俺、それは巴さんと約束してるから……」


「ほう」


 藤子の瞳が意地悪く細められる。


「第五席と第三席の言葉。あなたはどちらを重く取るのでしょうね?」


「……二人で出迎えて貰ってもいいすか?」


 藤子は、しばし考え込んだ。


「いいでしょう。巴ちゃんともっと仲良くなるよい機会です」


 僕は胸をなでおろした。

 そんな会話をしているうちに、車は駅についた。


 トランクからキャリーケースを取り出し、藤子に渡す。

 そして、去っていく彼女に頭を下げた。


「寂しくなりますね」


 勇気が、しみじみとした口調で言う。


「そうさなあ。もっと、習いたいことが多かった」


 東京へ行けば巴と藤子に稽古をつけてもらえる。夢のような環境だ。

 少し、進学に期待が湧いてきた。


「戦力ダウンを憂えよ少年」


 大輝は、車の中で頬杖をつきながら言う。


「お前は今、命を狙われてるんだぜ」


 そういえばそうだった。

 襲撃者に対する反応。それは藤子が最初に探知し、次は大輝だった。僕は三番目だ。


「なんか吐いたか?」


「少し手間取っている。記憶領域にロックがかかっていてな」


「じゃあ、犯人もわからずか」


「俺が思うに、至極単純な事件だよ」


 そう言って、大輝はハンドルにもたれかかった。


「行こうぜ。彼女は去った。俺達は帰る。それだけだ」


「妹がそんなに恋しいか」


「ちゃうわい。見たいテレビがあるんだよ」


「俺は恋しい」


「……東京でやってけるのかねえ」


 大輝は溜息混じりに言ったのだった。



第六話 完

次回『第三席と第五席』

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