第三神将、去る
その日の朝、第三神将藤原藤子は大輝の運転する車に乗って駅に向かった。
僕と、勇気も見送りに来ている。
「アラタくん。修行を怠らないように」
「はい」
「今より強くなって、東京に来なさい」
「わかりました。必ず、実力をつけて向かいます」
「それでこそ、私の弟子です」
藤子が朗らかに微笑んだのがミラー越しに見えた。
「ところで勇気ちゃん」
「はい」
「東京へ来る気はありませんか? あなたが加われば首都八剣はなお強固なものになる。そんな気がするんです」
「恐れ多い言葉です」
僕は、勇気の切ない言葉を思い出し、数秒何も喋れなかった。
「正直、揺れています。東京へ行ったほうが、私は強くなれる」
思いもしない言葉だった。
彼女も剣士。
強くなれる機会を失うことを惜しんでいるのだろう。
「いらっしゃいいらっしゃい。あなたなら首都八剣になるのもすぐよ」
「そんなに簡単になれるものなんですか?」
僕は戸惑い混じりに問う。
「六席以下は正直有象無象です。家系だけは古い旧時代の遺物ですよ」
「なるほどなあ……」
「東京に来る日の前に電話をなさい。出迎えてあげますよ」
「俺、それは巴さんと約束してるから……」
「ほう」
藤子の瞳が意地悪く細められる。
「第五席と第三席の言葉。あなたはどちらを重く取るのでしょうね?」
「……二人で出迎えて貰ってもいいすか?」
藤子は、しばし考え込んだ。
「いいでしょう。巴ちゃんともっと仲良くなるよい機会です」
僕は胸をなでおろした。
そんな会話をしているうちに、車は駅についた。
トランクからキャリーケースを取り出し、藤子に渡す。
そして、去っていく彼女に頭を下げた。
「寂しくなりますね」
勇気が、しみじみとした口調で言う。
「そうさなあ。もっと、習いたいことが多かった」
東京へ行けば巴と藤子に稽古をつけてもらえる。夢のような環境だ。
少し、進学に期待が湧いてきた。
「戦力ダウンを憂えよ少年」
大輝は、車の中で頬杖をつきながら言う。
「お前は今、命を狙われてるんだぜ」
そういえばそうだった。
襲撃者に対する反応。それは藤子が最初に探知し、次は大輝だった。僕は三番目だ。
「なんか吐いたか?」
「少し手間取っている。記憶領域にロックがかかっていてな」
「じゃあ、犯人もわからずか」
「俺が思うに、至極単純な事件だよ」
そう言って、大輝はハンドルにもたれかかった。
「行こうぜ。彼女は去った。俺達は帰る。それだけだ」
「妹がそんなに恋しいか」
「ちゃうわい。見たいテレビがあるんだよ」
「俺は恋しい」
「……東京でやってけるのかねえ」
大輝は溜息混じりに言ったのだった。
第六話 完
次回『第三席と第五席』




