ソウルキャッチャー対第三神将
山奥の公園での中央、藤子と大輝は向かい合った。
アラタと響と勇気は観客として少し離れた場にいる。
「それじゃあやろうじゃねえか」
大輝が腕を組み、堂々とした口調で言う。
「そうですね。やりましょう」
そう言って藤子は、杖のようについていた日本刀を鞘から引き抜いた。
「ソウルキャッチャーは対多戦も難なくこなす。タイマンで俺に挑んだことを後悔させてやる」
「多数を相手取るのは首都八剣も同じ。剣の冴えを見せてあげましょう」
と言っても、資料にあった魂やスキルを吸収する巨大な腕。それをなんとかしなければ話は始まらない。
タイマンと言った手前逃げは封じられている。
(出たとこ勝負か)
藤子は、苦笑する。
(いつものことだ。それで生き延びてきた)
「行くぜ」
大輝の目に赤い光が輝き始める。
「はい、どうぞ」
藤子は、刀を構えた。
次の瞬間、藤子は五本の巨大な腕に囲まれていた。
(節操も情緒もないな!)
藤子は舌打ちしたいような気分になる。
(剣が通じるかどうかだ)
藤子は刀を振りかぶって前へと跳躍した。
「篠塚流、岩盤崩し!」
巨大な腕を四方八方から斬り刻む。
腕はそのダメージで、後方へと倒れた。
(いける!)
大輝は驚愕した表情で、腕を組むのをやめて、戦闘態勢を整える。
藤子は土を撒いて、前方へと飛んだ。
「東雲流、九十九赤華!」
藤子の刀が蛇のようにたわみ、相手の肩へ向かって伸びて襲いかかる。
当たった。
大輝の服が破れ、肩が露わになる。
しかし、そこには少しのダメージもない。
(なるほど、これが鬼とドラゴンを吸収したことによる防御力……!)
大輝が火球を放った。
藤子は、空中に投げていた土を踏みつけて上空へと逃れる。本来なら人間の体重など支えることができない空中に投げられた土も、不条理の力を使えば体を運んでくれる。
その勢いもそのままに、大輝へと迫った。
火球が次々に飛んでくる。
その全てを、断っていく。
その時、氷の魔素が自分に向かって集まってくるのがわかった。
土をもう一度まき、蹴り飛ばして横へとスライドする。
そして、最後の手段とばかりに、大輝の前に巨大な腕が現れた。
それを、藤子は一刀両断する。
そして、落ちてきた勢いもそのままに、藤子は技を放った。
「東雲流、十赤華!」
大輝の体のあちこちに傷がつき、血がにじみ出て服の色が変わる。
「これがあらゆるものを斬る不条理の力。首都八剣の最低条件です」
「そうかい」
大輝は微笑んでいた。
その手が前に伸び、藤子の首を掴む。
藤子は刀で腕を断とうとしたが、断てない。
藤子が不条理の力で刀のダメージを強化したように、相手も魔力で腕を固くしたのだ。
「失神するまでこのまま吊り上げといてやるよ」
「ぐ……ぐぐ……」
藤子の足は地面についていない。
その足が後ろに振られ、反動をつけて前へと蹴りを放った。
骨が折れる音がした。
彼は、腕に魔力をこめていた分、それ以外の箇所の魔力が弱くなっていた。
大輝は腹部を押さえ、胃液を吐いた。
藤子は開放され、後方へと跳躍する。
「流石はソウルキャッチャー。条理の外の存在」
「これが首都八剣か……」
大輝はそう言って、手を開いて藤子に向ける。
赤い目が、輝きを放っている。
「本気を出して、かまわんかな」
「面白いですね。私も今のは準備運動のようなものです」
まだ藤子はスキルも使っていない。全力には程遠い戦いだ。
もっとも、スキルを最後に使ったのはいつかすら覚えていないが。
それが、その久々になりそうだった。
「ストップストップストーップ」
そう言って、アラタが二人の間に入ってくる。
「お前ら白熱しすぎだ。致命傷負う前にやめとけ」
「俺には治療スキルがある」
「翠さんのものほどではないだろう? 後遺症が残りかねない」
大輝はしばらく考え込んでいたが、舌打ちして跳躍した。
そして、跳躍を繰り返して、山を下っていった。
「二戦続けて不完全燃焼だなあ」
藤子は苦笑交じりに言う。
「死ぬよりはいいでしょう?」
「アラタくんは私と彼が戦えば私が死ぬと思っているんですか?」
「わかりません。二人の実力は近いように思えた。だから、危険だと思ったんです」
「冷静な判断だ。君はいい刑事になります」
「……いや、俺サラリーマン志望なんですけどね」
「へ」
思わず、間の抜けた声を上げた藤子だった。
第五話 完
次回『第三神将、去る』




