第三神将は暴れたい
深夜のことだった。
アラタ邸に忍び込む影が三つ。
門をよじ登り、ピッキングで扉を開くと、中に入っていった。
「何用かな、ご客人」
そう言って、日本刀を鞘に収めたまま杖のようについて、藤原藤子が立っていた。
ただ、ポーズはきまっていても、服は寝間着なのが少し間が抜けている。
敵はそれぞれ、くないを両手に握った。
そして、それを一斉に投じた。
くないの一斉投擲だけならば容易いものだっただろう。
しかし、その後に新たに短刀を握った敵が三人駆けてきている。
(さて、第三神将の腕の見せ所だ)
そう思った瞬間、地面から巨大な腕が生えて、くないを受けとめた。
敵も藤子も唖然とするしかない。
「俺さぁ。最近また不眠症のケ出てるんだ。夜に騒ぐパリピは苦手なんだわ」
そう言って、階段から大輝が下りてくる。
「ここで逃げるなら見逃す。それでも来るなら返り討ちにする。好きなように選べ」
短刀を握った三人は互いに顔を見合わせる。
そのうち、一人が腕の中に突進した。
「ああ、それ一番愚かな選択だ」
腕を通り抜けた一人は、まるで命を吸われたように地面に倒れ伏した。
「ソウルキャッチャー……?」
「いや待て、ただの麻痺かも……」
「どちらにしろ、前の道はこの腕に阻まれている。撤収だ」
「帰る場所なんてないだろう?」
「それでも、撤収するしかあるまい」
二人は話し合い、頷きあうと、去っていった。
「私の見せ場だったんですがね」
藤子はとぼけた調子で言う。
「客人にそこまでさせられまい。それにしても次期当主殿はなにをしているのかな」
アラタが下りてくる。
「なに? 喧嘩してるの? 殺気感じたけど」
「呑気なもんだぜ」
そう言って、大輝は指を鳴らして腕を消した。
「あ、お前また魂吸って!」
アラタはそう言って、倒れている人物に目を向ける。
「心臓マッサージするから病院に電話。藤子さん頼む」
「マウストゥマウスは?」
藤子はおっとりとした口調で言う。
「あれ効果薄いらしいですよ。てか電話早く」
「はいはい」
アラタ邸の深夜のドタバタ劇はこうして幕を閉じたのだった。
+++
藤子は昨日の三人を思い返す。
(結構な手練だったなあ)
考えれば考えるほど惜しい、と思ってしまうのだ。
自分が倒したかった、と。
それを横取りした相手は、今、藤子の対面の席で味噌汁をすすっている。
「義兄さん。魂のことだが」
「黒幕を吐いたら戻すさ」
「ん、わかった」
これが元ソウルイーター、皆城大輝。
ソウルイーター事件では首都八剣の投入も検討された。
しかし、遠距離攻撃に対応できないのではないか、近距離戦の貴重な熟練者を無為に失うのではないか、という懸念があり、結局その案は流れた。
彼も、尋常な強さではない。
趣味で読んだソウルイーター事件の資料によれば、彼はあの魂を吸う腕を何本も呼び出し操ることができるのだ。
戦ってみたい。
そんな欲が湧いた。
「大輝さん。結構臆病なんですね。私は三人を相手取っても失神させる自信がありましたよ」
「俺の方法のが楽だろ?」
「近距離戦に自信がない?」
「はっはっはっはっは」
大輝は声を上げて笑う。
その目が、不意に剣呑な光を帯びた。
「馬鹿言え」
「では、私と一回戦ってみませんか? 真剣で」
「ああ、いいよ」
「ああ、いいよじゃないだろお前!」
アラタが立ち上がる。
「藤子さんも藤子さんだよ。なに煽ってるんだよ」
「私は強者と戦う時生きている実感を味わうことができるんです」
「厄介な性癖暴露しないでくださいよ」
「場所はそっちが選んでいいぜ」
そう言って、大輝がテーブルの上に地図を滑らせる。
ここ近辺の地図で、古城跡地には丸印が、五芒星の位置にはバツ印があった。
「山に公園がありますね。ここなら人が少ないから、ここにしましょう」
「あいよ」
大輝は軽い調子で請け負う。
「軽いですね。最悪、死ぬんですよ?」
疑うように藤子は言う。
「俺はソウルキャッチャーだ。回復の術も心得ている」
「その自信。打ち砕いて見せましょう」
「朝ののどかな朝食中に殺人予告やめてくれないかなホント」
アラタは頭を抱えるしかなかった。
第四話 完
次回『ソウルキャッチャー対第三神将』




