一方、首都八剣は
首都八剣第五席である巴は、三席の不在に一抹の不安を感じていた。
「第三席が帰ってこん」
第一席が、愚痴るように言う。
「まさかと思っていたが、取り込まれたか」
「アラタくんの才能を見て、少し鍛えてやりたくなったんだと思います」
巴は言う。
「ふん、大方美形の男にうつつを抜かしているのではないのかな」
第八席が意地悪く言う。
「いやー、それはないですよ。あの人ジャニーズ大好きですもん。アラタくんみたいにガッチリしたのは趣味じゃないと思います」
「なんで新参のお前が第三席の趣味を知っている」
「若い女の子同士ということで可愛がられているので」
「若者が増えるのは良いことだ」
第一席が咳をする。
結構高齢なので、それを聞くたび巴はひやひやしている。
「少しわしと第五席だけにしてくれるか」
第一席は思いもしないことを言った。
他の面々は、それに従って外へ出ていく。
ただ、第八席だけが、道場に礼をした時に憎々しげに巴を見ていた。
巴は、第一席の前に座る。
「いかなる申し出でしょうか」
「いやの。この首都八剣の成り立ちについて話しておこうと思っての」
「成り立ち……?」
首都八剣がいつからあったか、巴は知らない。
「最初は、強い剣士を集めて情報交換をしようというのが首都八剣の趣旨じゃった」
「はい。そうあれたらと思います」
「しかしいつからか、首都八剣は古い家系の箔付けに使われるようになった。停滞はあれど向上はない。そんな無意味な空間じゃ。ワシの第一席という座も、実力だけで勝ち取ったものではない」
そこで咳をして、第一席は言葉を続ける。
「まあ、実力でも一席になれたと思っておるがの」
「御尤も」
「ワシは喜んでいるんじゃよ。第三席に第五席。そしてお前達が認めた新たな剣客。首都八剣に新しい風を吹き込んでくれるかもしれんと」
「……アラタくんなら期待に添えると私は信じています」
「お主もまだ発展途上中じゃがな」
「面目ない」
「仇の首を見たそうだな」
「……はい」
仇の死体を見た時、感じたのは、達成感より虚無感だった。
怒りを拠り所にしていた自分が、今後なにを拠り所に生きていけばよいのか。
巴は、人生を見失っていた。
「本当ならば、お主なら斬り殺せた手合だ。感情が剣を鈍らせた」
「御尤も」
「そして、お主は今も剣を鈍らせている」
第一席の言葉に、巴は黙った。
痛いところを突かれた。そんな思いがある。
「それでいいんじゃよ」
第一席の言葉に、巴は拍子抜けした。
「人生には波がある。上手く波に乗る術を覚えることだ。死んだほうがマシじゃないかという下りもあれば、生きていてよかったと実感できる上りもある。それを受け入れることができれば、剣の鈍りはなくなるじゃろう」
「ありがとうございます。一つ、迷いが吹っ切れました」
自分は剣に生きよう。そう巴は思った。
剣で敵を倒し、弟子を次々にとって剣を教え、最後には剣で死ぬ。
それが、何人もの人間を殺した自分の罪滅ぼしではないかと。
「うむ。迷いが消えていい顔をしておる。お主がこれからの首都八剣を導いてくれ」
「はっ」
そう言って、巴は頭を垂れた。
第一席は、その頭に軽く手を乗せた。
「……妻が生きておれば、お主ぐらいの孫がいたのかのう」
ぼやくように第一席は言う。
「奥方は、一体?」
「流行り病じゃよ。子供もそれで死んだ。わしが残せるのは、八振りの刀のみ。さて」
第一席は立ち上がって、腰の鞘から日本刀を抜いた。
そして、咳をする。
巴は慌てて立ち上がり、その背を撫でた。
「お主に、奥義を伝授しよう」
「奥義……?」
「わしが主に学んだ篠塚流の奥義じゃ。変な流派でな。人を斬ることよりも物を破壊することに特化しておる。まあそれがひいては人間に対しても破壊力を生むのだが」
「それは……」
巴ははっとした。
剣による物質の破壊。
それを可能にする方法。
「そう。お主も察しの通り、不条理の奥義じゃ」
巴は第一席と距離を置き、ダガーナイフを両手に持ち、逆手に構えた。
「一瞬に集中しろ。そして、死ぬな」
そう言って、第一席は突進した。
「篠塚流奥義!」
「東雲流十六赤華!」
次の瞬間、刀のぶつかりあう音が響き渡った。
第三話 完
次回『第三神将は暴れたい』




