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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十八章 第三神将は暴れるのがお好き
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少し馴染めぬ日常で

今週も土曜日更新して行こうと思います。

 自習の時間、学生達が真剣に赤本をめくっている。

 推薦が決まっている僕ことアラタとしては暇な時間だ。その事実の中で、自分が浮いているという実感を如実に味わう。


 健二なんて単刀直入なもので、推薦が決まった奴はいいよな、なんて日頃言っている。

 とは言われても、インターハイで優勝したのは自分の努力の成果なので責められる言われはない。


 最近は家に帰ると、勇気と稽古をするのが日課になった。

 元々の日課ではあるが、開始時間が二時間は早い。


「お前、自分とこの部活はいいのかよ」


 問うと


「師匠と稽古してるほうが実力上がるので」


 淡々と彼女はそう返した。

 確かに、僕も今の部員には実力が近い者がいない。

 僕らは孤島に残された二人ぼっちのようだ。


 僕がいなくなったら勇気はどうするのだろうか。

 一人で修練を積むのだろう。効率が悪くてもそうするしかない。

 ならば、僕はどうなるのだろうか。

 推薦生を取っている大学。ライバルがいることを期待する気持ちはある。

 けれども、インターハイを思い返すと、そんなに強い敵はいただろうか、とも思うのだ。


 僕は、強くなりすぎた。

 十八にして、くぐり抜けてきた死線は数知れず。

 その経験は、僕を一般人とは違う次元へと引き上げていた。

 一般人は、銃弾を斬れないのだ。


 その時、殺気を感じて僕は勇気を弾き飛ばした。

 勇気が尻もちをつくまでの間、複数の出来事が同時に起こった。

 僕は勇気の壁になれる立ち位置に移動した。

 侵入者が、銃を構えた。


 銃弾が放たれ、勇気は尻もちをつく。

 僕は木刀だ。回避するしかない。

 そして、腰から真剣を引き抜いた。


 続けて銃弾が放たれる。

 その三発を、僕は斬って、前へと進んだ。


 弾切れらしく、相手は銃を捨てて刀を抜く。

 日本刀使い。

 僕の胸は不謹慎にも高鳴った。


 僕の刀が、敵に向けられる。


「篠塚流、虹の歩み」


 相手はそう呟くと、五人に分身した。

 僕は冷静に分析する。

 どこかの地点で、彼女は自分の気配を色濃く残している。この分裂したものも、気配が色濃く残ったがための残像だ。

 ならば、一番気配が濃いのは何処か。


 僕は、背後を向いた。

 そして、日本刀がぶつかりあう音が響き渡る。


 僕の一撃をいなして、相手は僕の額に刀の柄を叩き付けた。


「合格!」


「は?」


 僕はわけがわからず相手から距離を取り、臨戦態勢を取り続ける。

 相手は、既に刀を鞘に収めていた。


「虹の歩みを初見で対処されたのは巴ちゃんに続きあなたが二人目です」


「師匠も……?」


 相手は、胸を張って言った。


「首都八剣第三神将藤原藤子。あなたの師匠の同志です」


「これは、失礼しました」


 僕は慌てて刀を納め、座り込む。

 首都八剣なるものに覚えはないが、師の同僚と言うならそうなのだろう。

 実力は、確かだった。

 さっき彼女が僕を殺そうと思えば、浅くはない傷を与えることができた。


「あなた、面白い相をしていますね」


 藤子は、面白がるように言う。


「死ぬまであなたは事件と隣り合わせにいるでしょう。救うか救わないかは全てはあなたの肩にかかっている」


「俺は、大学を卒業したら、剣を捨てる気です」


 藤子は滑稽そうに笑う。


「無理ですよ。あなたの相は平穏とは程遠い」


「それが運命なら、変えるまでです」


「そうですか」


 言ってもせんないと感じたのか、藤子は苦笑した。


「首都八剣に興味はありませんか、アラタくん。剣術の上位者八名を選抜した勉強会です」


「日本の頂点ということですか?」


 僕には、うずくものがあった。


「私が推薦してあげますよ。もっとも、第五席のあなたの師匠が既に推薦していますが。さっきの立ち会いであなたの実力は十二分にわかった」


「……そんな簡単に、推薦で通るんですか?」


「お忘れですか?」


 藤子はそう言って、指で刀の柄を撫でていく。


「首都八剣第三神将藤原藤子。全国三位の人間がいいと言うのです。逆らう者はおりますまい」


「第二神将と第一神将の意見は?」


「私が退けます」


 飄々と言ってのけるこの女性に、僕は戸惑うしかなかった。

 ただ、自分がもっと強くなれるのだと思うと、心が沸き立ってきた。


「藤子さん」


「はい、なんですか?」


「帰るまでに、俺を鍛えてくれませんか?」


「私の帰りの新幹線は今日の二十時です」


 そう言って、藤子はバックから新幹線のチケットを取り出す。

 そして、それを千切った。


「しかし、あなたは伸びしろが多そうだ。いいですよ。二、三日ぐらいここにいてもバチは当たらないでしょう」


「ありがとうございます」


 僕は目を輝かせて礼をした。

 強くなれるのだ、自分は。

 もっともっと強くなれるのだ。


「それにしても、あなた、気づいてます?」


 藤子が不思議そうに問う。


「既に師と同じか、それ以上の実力を持っている自分に」


 僕は、思わず目を丸くする。


「気づいてないようですね。自分の実力を正確に把握すること。それが私が教えることの第一歩です」


(師匠を、超えた……?)


 その一言は、僕に戸惑いをもたらすだけだった。




第一話 完


次回『第三神将は暴れるのがお好き』

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