全ての終わりにして全ての始まり
「楓さん、灯火ちゃんを中に入れてくれますか? 出血で意識が朦朧としているようだから早いほうがいい」
私は少女の体に手を置いたまま、氷の壁に向かって話しかける。
「了解」
氷の壁が一瞬だけ開き、灯火が入ってきた。
「この子にスキル封印の矢を打って。それで、全部終わる」
「わかりました」
灯火は肩を小さく震わせて、真剣な表情で頷いた。
なんだか小動物みたいな動作の子だな、と思う。
灯火の手に弓が現れ、矢が現れる。
矢を弦につがえ、引く。
そして、放たれた矢は少女の腕に見事に突き刺さっていた。
「生かすつもりなの? 甘ちゃんね」
「あなたからは聞き出せる情報がまだまだあると判断した。それに、不老不死の病が本当ならば、殺す方法がない」
そう言って、私は少女の切断された足に触れる。
傷口が塞がって、足がくっついた。
「これは……見事なものね」
少女はそう言って目を丸くした。
「終わりね」
「始まりじゃよ」
そう、少女は言った。
その表情は自分の台詞に戸惑っているかのようだ。
「ミカ様。お待ち下さい。ここでの出現は、あまりにも危険」
「それもこれもお前が使えぬのが悪い」
少女は一人で会話をしている。
そして、少女の腹部から何者かの頭部が出てきたと思ったら、全身が抜け出してきていた。
現代人ではないと一目でわかった。
布に穴を開けて紐で縛るだけの原始的な服。ネックレスのように輝く勾玉。
その目には、赤い光が輝いていた。
「窮屈じゃのう……少し広くするとするか」
私は咄嗟に、灯火と少女を庇って風の壁を展開させた。
そして、氷の壁へと吹き飛ばされた。
これは、どの属性の能力でもない。
ただ、力を入れただけ。
それだけで、楓の結界は跡形もなく弾け飛んだ。
「さて、恐いのう。この中には全てを斬る超越者が複数おる。次の手を打たねばならん」
そう言うと、ミカらしき少女は空を飛んで去っていった。
「追いかけます!」
灯火が言う。
「ついてく!」
私は言う。
しかし、上空に出た時には、ミカの居場所は何処かもわからなくなっていた。
戦いは終わった。
疲弊を残し、傷跡を残し、それでも束の間の平和を得るための、戦いは終わった。
第十話 完
次回『ミカ』




