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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十七章 古城跡地の真実(第五部最終章)
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相手の先を読め

「アラタさん、箒に乗って!」


 そう言って、灯火が箒で空を飛びながら近づいてくる。


「自分の足で歩ける」


「疲労が見てとれます。私のスキルで移動した方が早いし、移動しつつ回復できるでしょ?」


 尤もだ。

 アラタは、箒の後ろ部分に座った。

 箒が地上を離れ、空を飛ぶ。


「目的地はわかってるな?」


「中央の草原」


「オッケーだ」


 箒は高度を上げていく。

 そして、アラタは絶句した。


 草原の中央に、卵上の氷が鎮座している。仲間達は、その周囲にいた。アラタが最後のようだ。

 草原に降りると、アラタは楓の傍に駆け寄った。


「その首は……?」


 楓は怪訝そうに訊く。


「師の仇です」


「ああ、灯火を利用しようとしていたっていう」


「ええ。ところでこれはどうなっているんですか?」


「私の氷はスキルを打ち消す。氷の外に逃げ出せないように閉じさせてもらった」


「ということは?」


「ええ。翠はまだ戦っている。目まぐるしいワープ合戦で」


 アラタは、息を呑んだ。




+++




(左前方、上)


(右後方、下に行く)


 そう歩美に告げて、私はワープする。

 氷の壁に周囲を包まれて、少々寒い。


(相手と自分の移動速度は同等。頭を使うには一度距離を置きたい)


 しかし、そんな思いも裏腹に、相手は即座に私の右後方にワープした。

 ワープを続ける。


 集中力が切れつつある。

 それが死につながることは、私が誰よりもよく知っている。


 そして、気がついた。


(ワープで接近できるなら、銃より剣の方が攻撃範囲が広い!)


 銃を捨て、光剣を呼び出す。

 そして、相手のワープしてくる位置を予測して斬った。


 相手の髪が一房、空に待った。

 それは、ここに来てから私が初めて与えた一撃だった。


「ふうん。少しは考えてるのね」


 感心したように少女は言う。

 その全身からは汗が流れている。


「もう、やめよう、こんなこと。皆死んで、皆疲弊して、馬鹿みたいだ」


「それでも私は、異世界への憧憬を忘れられない」


 銃が構えられる。

 また、ワープでの追いかけっこ。


「なんで異世界に拘る?」


「異世界の新鮮な空気の中で生きたい。それに、私の病気はゲートを開かないと完治しない」


「病気?」


「不老不死の病よ」


「不老不死……?」


「私は何歳に見える。ねえ、お嬢さん」


 集中力が下がっている状態で会話をしていて少し気が削がれた。

 銃の冷たい感触が、側頭部にあった。

 ワープと同時に銃声。

 銃弾は氷に沈んだ。


「異世界には様々なスキルがある。不老不死の魔術もあれば、それを打ち消す魔術もある。科学が発展したのがこの世界なら、魔術が発展したのがあの世界なのよ」


「つまり、あんたの自殺に皆付き合わせられてたってことね……」


「端的に言えばそうなるわね」


「生け捕りは、諦めた」


 そう言って、私は剣を手放す。


「迸れ、獄炎」


 鉄をも溶かす炎がフィールド全体を覆う。

 スキルキャンセルの効果がある氷はともかく、少女に防ぐ術はない。

 遺体すら残らず消えるだろう。


 そのはずだった。

 獄炎を消すと、なんのダメージも受けていない少女の姿が目の前にあった。

 唖然として、立ち尽くす。


「だんだんわかってきたみたいね。私には勝てない、と」


「炎のスキルで耐性を得ているだけだわ。勝ち筋は必ずある」


「面白い話でもしてあげましょうかしら」


(勝ち筋を探すためにも考える時間は必要……)


「ええ、聞きたいわ」


「そう」


 少女は地面に座り込む。

 着物がはだけ、艶めかしい足が露わになる。


「どうして古城跡地にゲートがあるのか。何故五芒星の中心がゲートのあるこの城だったのか。気になっていたことじゃない?」


「そうね。不思議に思っていたわ」


「ここにあった古城は、蓋なのよ」


「蓋……?」


「かつて太古の時代。ここには異世界の知識を得て皆を統治していた巫女がいた。その巫女とゲートを封印するためにここに城が建てられたのよ」


 私は絶句する。

 それは、想像もつかない太古の話なのだろう。


「しかし、様々な人間の努力があってゲートは緩み始めている。巫女も封印を逃れている。人間の仕事にはね、どこか粗が出るものなのよ」


「そして、あなたはその状況を利用したと」


「いかにも」


 少女は微笑んだ。


「さて、雑談はこれぐらいにして」


 少女は立ち上がる。私は手に光剣を作り出す。


「やりましょうか」


(歩美。彼女の次の出現ポイントは読める?)


(今までのパターンとして、背後方向だと思われるわ)


(気が合うわね)


 少女が消える。

 その瞬間、私は後方に向かって思い切り光剣を振った。


 少女は驚いた表情で、足を断たれる。

 そして、戦うのを諦めたように、天を仰いだ。



第九話 完

次回『全ての始まりにして全ての終わり』

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