エロゲーハンター恭司 奔走編
「というわけなんだ相馬のダンナ。ブツを預かってくれないだろうか」
「んー……」
電話口の相馬は唸って、しばし考え込んだ。
それは、肯定か否定かを考えているというよりは、どう断るかを考えている様子に見えた。
「俺に娘がいることは知ってるよな」
「うん」
「一人は高校生だ。反抗期だな」
「うん」
「そんな中で俺が学生を口説き落としてエロいことをするゲームを持ってたらどうなると思う」
僕は、言葉を失う。
「そりゃもう家庭内での地位が保てなくなるわな」
「バレなきゃ大丈夫ですよ」
「とか言っててお前バレて泣きついてるんじゃねーかよ。そもそもだ。俺はお前の陰部触った手で触ったグッズなんて預かりたくない」
「触ってないですよ! 泣きゲーやコメディゲーばっかなんですから!」
「すまん俺そこら辺区別つかんのだわ」
「アニメ化で話題になったゲームもありますよ」
「繰り返し言うが俺はそこら辺区別つかんのだわ。じゃあ悪いけど、仕事中だからまたな」
そう言って、電話は切れた。
さて、どうする。
アラタの家は広いから隠し場所は沢山あるだろう。しかし、一度露見したら酷いことになる。
葵も同じだ。
同僚にはオタク趣味をばらしていないのでそれを暴露するのは躊躇われる。
八方塞がりだ。
「くそ。エロゲだからって皆偏見で見やがって。ノベルゲーが少ない中でエロゲーは貴重なんだぞ」
時間は刻一刻と近づいてくる。
僕は、あることを閃いた。
そして、コートを着て、昼の町を歩き始めた。
+++
「水月に相談に来たんだ、あいつ」
自室のベッドに寝転がりながら、翠は水月と電話をしていた。
「ええ。若干可哀想じゃないですか?」
「そうよねー。彼氏の趣味を奪うのはどうなんだろうと思い直してるところなのよ。けどね。やっぱり受け入れられないかなあというのが本音なんだわ」
「まあ、わからないでもないですけどね」
「悪かったね、水月。迷惑かけて」
「いえいえ。頑張って解決してください」
「解決ねえ……」
電話を切って、一つ呟く。
平行線だと思うのだ。
翠は恭司の趣味を理解できないし、恭司は翠を理解のない彼女としか思えない。
どうしたものだろうかと思う。
時計を見ると、十七時だ。
玄関の扉が勢い良く開かれた。
「翠、いるか!」
恭司だ。
「ああ、うん。いるけど」
腰を浮かせて立ち上がり、玄関に向かう。
玄関ではセレナが、お土産目当てで駆けつけていた。
「はい、アイス」
そう言って、恭司はセレナにアイスを渡す。
「お菓子で人の子供を手懐けないで」
私は言いがかりだとわかっていながらもつい言ってしまう。
「で、なにしに来たの?」
「逆襲に来た」
恭司はそう言って、翠の顔を真剣な表情で見た。
なにか厄介なことになったな、というのが翠の感想だった。
第八話 完
次回『エロゲーハンター恭司 逆襲編』




