エロゲーハンター恭司 発覚編
翠はその日、痩せがちな恭司に、肉を使った料理でも作ろうと準備をして向かっていた。
そして、合鍵で玄関の扉を開けた途端、真っ青になる。
「やめて……やめてえ……」
女の子のか細い声が室内には響いている。
買い物袋を置いて、慎重な足取りでキッチンの横を進んでいく。
「お願い……助けてぇ……」
女の子は懇願している。
なにが起こっているのか、翠は困惑していた。
まさか恭司が女の子を連れ込み、迫っているとでもいうのだろうか。
普段の温厚な彼からはとても想像がつかない。
翠は躊躇った。
このまま帰ろうかとも思った。
しかし、そうなると、女の子は助からなくなる。
「きゃあ、いやあああ」
女の子が悲鳴を上げる。
翠は思い切って、扉を開けた。
恭司がパソコンに向かって座っていた。
画面には服を千切られている女の子が表示されている。
翠はしばし、その場で立ち尽くした。
「ノックぐらいはしようぜ」
恭司は画面を変えて、憤慨したように言う。
「いや……それ……なに?」
恭司はしばらく悪戯がばれた子供のようにそっぽを向いていたが、そのうち呟いた。
「エロゲー」
翠は少し苛立った。
+++
僕、恭司は自室で正座をさせられていた。
目の前には、押し入れから出されたエロゲーの箱が山積み。
「いやな、翠。このメーカーは確かに強姦描写はあるが良質なストーリーで有名で、最後までやれば良さが必ず伝わるというか」
「黙れエロ大魔神」
不名誉な称号が与えられていた。
「なによこの数。この数、その、したの?」
怖気がたつような口調で翠は言う。
「いや、待て翠。ここにあるゲームは泣きゲーなんだ」
「泣きゲー?」
翠は、戸惑うような表情になる。
これはいけるか、と僕は思う。
「泣けるような展開をするエロゲーだよ。性交はおまけ程度でストーリーを評価されている」
「じゃあ、さっき女の子が強姦されかけてた奴はどうなるの?」
僕は返事を躊躇う。
「強姦されるけど最後にはハッピーエンド。映画にだってそれぐらいの卑猥な要素はあるだろう」
「ふーん」
翠は興味深げに箱を眺める。
「わかってくれたか!」
「明後日までにこの箱全部処分してなかったらもう家来ないから」
笑顔でそう宣告して、翠は去っていった。
後には、僕が一人残された。
本気か? 初回限定盤や特典付きも全て?
そんなこと、許されるのだろうか。
僕は悩んだ。
+++
翌日の午後、僕はシスター水月を訊ねていた。
他に相談できる相手もいなかったのだ。
「なんでしょう恭司さん。私はなんでも聞きますよ」
「それじゃあ、少し、話しづらい話なのですが」
「はい」
「シスターはエロゲをする男は駄目な人でしょうか」
「……男性に性欲があることは否定できません。私は仕方ないのではないかと思いますが」
「エロゲーが大好きなんですよ。キャラの掛け合いに重厚なストーリー。僕はエロゲを愛している」
「そ、そうですか」
なんだろう。若干水月との距離が開いた気がする。
「けど、翠はそれを理解してくれなくて。今日中に処分しろと言うんです。シスターはどう思いますか」
「そうですねえ……」
シスターは腕を組んで考え込む。
「簡単な話じゃないでしょうか」
「はい?」
「エロゲを取るか、翠さんを取るか。二つに一つです」
「慈悲はないのですか」
「私の女友達にもエロゲーやってる子いますけど、本当に人によるんだと思いますよ。そういうのに対する反応って。それで、翠さんは駄目だった。後はあなたがどういう返事を返すかです」
僕はその場に崩れ落ちた。
「選べない……」
「百年の恋も冷める台詞ですよそれって」
水月は苦笑交じりに言う。
「とりあえず誰かに預けたらいいんじゃないですかね」
僕は顔を上げる。
「そうだ。預かってもらえばいいんだ! ありがとう、シスター水月」
水月の手を握ろうとする。
水月の手が、無言で後ろに引かれた。
沈黙が漂う。
「こんな理解のない世界嫌いだぁ!」
「ああ、恭司さん!」
僕は教会の扉を開けると、駆け出していった。
スキルを使わない久々の全力疾走は、気持ちよかった。
第七話 完
次回『エロゲーハンター恭司 奔走編』




