表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
318/391

精霊達のお茶会?

 私、セレナはレースゲームをやっていた。目の前の敵をもう少しで抜かせそうだ。そう思っていたら、相手はコースアウトして行った。

 私はほくそ笑む。

 しかし、少し離れた先の距離に、敵は復帰してきた。

 ショートカットされたのだ。


「この、クソ」


 クソゲーと言いかけて私は黙る。

 これも翠に勝ってもらったおもちゃだ。悪く言うのは躊躇われる。


「クソ、絶対抜かす」


 そう言って、私は前のめりになった。

 部屋の扉が開いた。


「セレナー、あんた寝なさいよ。明日はお茶会でしょ?」


 翠だ。


「ちょっと、ノックしてよ」


「あんたの部屋が散らかってるのはいつものことでしょ。その対戦終わったらさっさと寝なさい」


「寝れないんだ……」


 翠が苦笑して私の隣に座る。


「あらあら、緊張してるのね」


「お母さんはこんな経験ある?」


「同窓会に出たことはあるね。同じ学年だった生徒を集めて飲み会だとか」


「どうだった?」


 皆、変わっていたらどうしようと思う。

 私達の絆がどれほど堅いのか。それは私達にもわからない。


「皆変わってなかったというか……子供時代に戻ってたよ。その頃に戻ったかのように」


「そっか」


「うん、だからセレナも大丈夫。あなた達、仲良かったじゃない」


「エレンとは仲良かったかあやしいけどねー」


「そういうことは言わない」


 そう言って、翠は私の頭を撫でる。


「じゃ、今日は寝なさい」


「はーい」


 翠は部屋を出て行く。

 ゲームが終わり、部屋中の電気を消す。

 心臓の音がしていた。

 私は明日、皆と会う。柄にもなく、緊張していた。




+++




 目的地までは翠のワープでひとっ飛びだ。

 と言っても、遠距離のワープである。翠はワープ直後の飛行もおぼつかなくなるほど疲労していた。


「ごめんね、お母さん。無理させて」


「いいのよ。こっちのが安上がりだ」


 そう言って、翠はベンチに座る。


「ホテルにチェックインして休憩してるから、終わったら部屋に来て」


「うん、わかった」


 そう言って、翠と別れる。

 金時計の下に、三人が揃っていた。

 エレン、シンシア、エレーヌ。

 皆、少し大人びていた。

 化粧を覚えている子までいる。


 歩調が少し緩まる。

 どれほど私達は、別々の時間を過ごしたのか。

 それが今日、明らかになる。


「遅い、セレナ。いっつもあんたが最後なのよ」


 エレンが厳しい口調で言う。

 懐かしい響きに、思わず口元が緩む。


「なによ、待ち時間より先に来たのはそっちじゃない」


「待ち時間は十分前」


「あれ? そうだっけ?」


 メールを確認する。確かに、エレンの言うことは正しい。


「まあまあエレンちゃん。皆揃ったんだから、喧嘩はやめようよ」


 そう取りなすのはエレーヌだ。

 大人になったな、と思う。

 長い髪の毛も整えられているし、滑舌もはっきりしている。


「……この場はエレーヌに従うわ。行きましょう」


「どこ行く?」


 私は前を歩き出したエレンに並ぶ。


「味噌カツ屋かなあ」


「ハンバーガーは?」


「あんなのいつでも食べれるじゃない。せっかく遠出したんだから、特別なものを食べたいわ」


「じゃあ評決を取ろうよ」


「いいけど……」


「シンシア、エレーヌ、ハンバーガーと味噌カツどっちがいい?」


「私、味噌カツ」


 と、エレーヌ。

 シンシアはしばらく黙ってぼんやりとしていたが、そのうち口を開いた。


「……味噌カツ食べてみたい」


「はい、私の勝ち」


 エレンが誇らしげに言う。それが憎らしくもあり、懐かしくもある。


「友達できたらいかない? バーガーショップ」


「友達ぐらいいるよ」


 エレンの言葉に、思わず憤る。


「そういうことにしときましょ」


 エレンは相変わらずだ。


(なっつかしいなあ……)


 私は、思わず微笑んでいた。



+++



「よ」


 予想外の客人に、翠は戸惑っていた。

 恭司だ。


 確かにメールでホテルと部屋番号は教えたが、まさか直接やってくるとは。


「遠距離のワープは流石にきついだろう。明日は車に乗せてってやるよ」


「うん……わざわざ来たの?」


「たまには俺を頼れ。そんなに頼りがいのない彼氏か?」


「いいのかなって思う時はあるけどね」


 そう言って、翠は目を逸らす。


「私、コブ付きだし」


「いいよ」


 恭司はそう言って微笑む。


「セレナも俺の娘だ。そういうつもりで接している」


(ああ、この素直さが恭司だなあ……)


 思わず微笑み、相手をハグする。

 恭司も、翠を抱き返す。

 そのまま、二人は抱き合ったまま部屋の中へと入っていった。

 部屋の扉が閉まった。



+++




「結構協力求められることあるよね」


 エレンが味噌カツを食べる手を止めて言う。


「なんか臨時職員と思われてそう」


 と、エレーヌ。


「私は呼ばれてないなあ……お母さ、じゃなくて翠の意向が影響されてるのかなあ」


「セレナは得してるよ」


 そう、ぼやくようにエレンは言う。


「……私は正職員になった」


 どこかぼんやりとしたシンシアの一言に、三人の間に緊張が走った。


「マジで?」


「……マジ」


 シンシアはそう言って、警察手帳を取り出す。中を開くと、確かにシンシアの顔写真がある。


「私は賢者の石に気に入られ、アーティファクトを手に入れた。その力は、世の中のために使いたい。義理の両親の説得には手間取ったけど……」


「賢者の石? アーテイファクト?」


 エレンは戸惑うように言う。

 一通りシンシアが説明を終えると、エレナは長い息を吐いた。


「パワーアップアイテムか。しかもデメリットがない」


「エレンは最近薬飲んでる?」


「いや、オーバードーズはしてないよ」


「飲んだ時ぐらいの力は軽く出るよ」


「いいなあ、賢者の石。どこにあるのかなあ」


「……首都の本庁に多く運び込まれた。今は、厳重な管理体制下にある」


「ふむ」


 エレンはそう言って考え込む。


「シンシアのことを否定するわけじゃないけど、危険なことはやめようよ」


 私は思わず言う。


「逆よ。力を持っている方が災いを退けられる」


「まあそういう考え方もあるけどね」


「……そういえば、もう一つ不思議な術を見た」


「私達で再現できるもの?」


 エレンが身を乗り出す。


「私がアーティファクトを外して、薬の量を調整すれば、多分……」


 シンシアは躊躇いがちに言う。


「それって、なに?」


「エレメンタルカラーズ」


 シンシアに、皆の注目が集まっていた。



+++



 一同は公園にやって来ていた。


「じゃあ、あの看板を狙おうか」


 そう言って、エレンが指差した先に、皆の視線が集まる。

 なんの変哲もない看板だ。


 エレーヌが土の力を集中させて手を差し出す。

 シンシアが風の力を集中させて手を差し出す。

 エレンが氷の力を集中させて手を差し出す。

 そして、私は炎。


 四人の手は重なっていた。

 その中で、属性の力は押し合いへし合い消滅と再生を繰り返した。


「いけ、エレメンタルカラーズ!」


 エレンが叫ぶ。

 光が弾けた。

 それは四色の光が混ざり合ってできたもの。

 しかしそれは、看板の前で解け、炎、土、氷、風の四つの攻撃に別れていた。


「駄目かあ」


 エレンが落胆したように言う。


「風の力が強すぎるように思う」


 エレーヌが躊躇いがちに言う。


「……実戦出てるから、威力がちょっと上がった」


 淡々と、シンシア。


「しゃーない。ゲーセン行くべ」


 話を変えるように、エレンは言った。


「あらあら、真面目なエレンさんがゲーセンですか」


 私はからかうように言う。


「ゲーセンぐらい行くわよ私だって」


 すっかり日常に染まっているエレンが、少し嬉しかった。



+++



「今年は第五席に巴嬢を迎え入れ、我々の戦力はさらに補強された。まずは、祝おう」


 新年会が行われていた。

 巴はその中の、五番目の席に座っている。

 首都八剣。

 東京中から選りすぐった剣士達で構成される集団に、巴も名を連ねていた。


 正直、付き合いが増えて疲れる。


「さ、五席殿。ひとつ」


 そう言って、六席が日本酒をおちょこに注ごうとする。

 それを、巴は固辞した。


「いえ、お酒は弱いので」


「それは付き合いが悪いというもの」


「そうですか……なら、一口、二口なら」


「それでこそ」


 そう言って、六席は日本酒をそそぐ。


「どうも」


 そう言って、おちょこをあおる。


「これは強い」


 冗談じゃない。一杯で顔と喉が熱くなってくるのがわかる。


「今年は、六席に私の弟子を迎え入れたいと思うのです」


 ざわめきが起こった。


「ほう。六席を」


 第一席の老人が面白がるように言う。


「そこまでの実力者かな?」


「遠野アラタ」


「正式な超対室の関係者ではあるまい!」


 八席が、青い顔をして言う。


「それを言えば、ここにいる人間も超対室のOBが多い」


 今にも破裂しそうなギスギスとした空気が場に流れていた。


「若者が増えるのは大いに結構」


 第一席が朗らかに言う。


「彼は東京に来るのかね?」


「ええ。高確率で」


「ならば、試さねばならぬだろうな」


 巴は微笑んだ。

 自分の自慢の弟子だ。いい結果を出してくれるだろう。そう、巴は信じていた。

 場には、緊迫した空気が流れていた。



+++



「シンシアシューティングゲームうまーい!」


「……射撃は練習してるから」


「褒めたんだから笑いなさいよね」


「私がそこらを不器用なのはわかってることじゃない」


「セレナ、シンシアを困らせない!」


「わ、エレンが怒った」


 懐かしい。楽しい。気のおけない仲間達との遊び。

 それも、次第に終わりが近づいてくる。


「じゃ、別れようか」


 躊躇いがちにエレーヌが言う。


「楽しかったよ」


 私は、しみじみとした口調で言う。


「……私も電車の時間近い」


「私は翠が待っててくれるから」


「あー、甘やかされてるなあ」


「五月蝿いなあエレンは」


「じゃあね」


 そう言って、エレンを残して三人は離れていく。

 エレンは躊躇うように、しばし黙っていたが、そのうち口を開いた。


「ねえ!」


「ん?」


 私は意表を突かれたような思いで振り向く。

 他の二人も同じようだった。


「これ、わけない?」


 そう言ってエレンは、小さな紙袋を出していた。

 皆で集まる。

 エレンは、紙袋からキーホルダーを四個取り出した。

 一つのハートが四分割されたデザインをしているキーホルダーだ。

 四つをくっつけることで、一つのハートができあがる。


 一人、また一人、と無言でキーホルダーを取り、カバンや帽子につける。


「離れてても、私達は一緒だから」


 エレンは、目に涙をためて言う。

 私は、思わず微笑んだ。


「当たり前だろ。困った時にはいつでも駆けつけてやるさ」


「セレナじゃちょっと頼りないけどね」


「にゃんだとぉ?」


 私達はしばらく睨み合っていたが、どちらともなく笑い始めた。

 笑いは伝染する。

 四人は笑い、そして、ハイタッチをして別れた。


 楽しい一日だった。本当にそう思う。

 明日からは普通の日常だ。再会も何年後になるかはわからない。

 けど、確かな絆を感じていた。



第六話 完



次回『エロゲーハンター恭司 発覚編』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ