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神楽坂葵の性別を定義したい

注意書き

今まではそんなこともなかったのですが、今回はBL、男の娘っぽい要素があります。

苦手な方はスルーして次回の飲み会話に進んでください。

「ねーねー、ちょっと噂になってるんだけど知ってる?」


 友達の千代に声をかけられて、響は戸惑った。


「噂? 私はのんびりしててそういうのに無頓着だからなあ」


「台風の目ってこういう状態のことを指すのね……」


 千代は同情するように言う。


「アラタくんが女の子と歩いている写真」


 そう言って、千代は淡々とスマートフォンを響に突きつける。

 そこに写っていたのは、確かにアラタと女の子が談笑しながら歩いている姿だ。

 少女の顔は小動物のように可愛らしく、髪の毛は長かった。


「あー……うーん……アラタにも女友達ぐらいはいるんじゃないかな」


「けど最近しょっちゅうこのコンビを見かけるって噂になってるよ」


「うーん……アラタに問い詰めてみようかなあ、どうするかなあ」


「なに言ってんのよ」


 千代が、勢い良く近づいてきたので、響は思わず仰け反った。


「現場を抑えるのよ」


「ええええ~?」



+++




 僕、アラタは、不思議な人物と歩いていた。

 いや、その人物のことは正直よく知っているのだ。タメ口で話そうと話し合ったこともある。

 けど、今、その人物の外見はその時とかけ離れていた。

 まず、下半身。スカートにニーソックスだ。次に上半身。胸がある。パッドを詰めたものだと知っていても服の上から見れば綺麗なものである。そして顔。化粧で化けるとはよく言われるが彼はまさにそれで、女性そのものの外見になっていた。ウィッグで髪は長くしてある。

 その目には涙が浮かんでいた。


「……泣くなよ」


 何故かぶっきらぼうな口調になる。

 そして今まで何度も思ったことをまた思うのだ。

 こいつ、肩のライン色っぽいな、と。


(なに考えてるんだ俺。こいつは男、男)


 けど一度気がつくと気になるもので、彼の肩のラインをつい目で追ってしまう。


「なんで俺が女装なんかしなきゃいけないんだ……」


 葵が呟くように言う。

 もともと中性的な声だ。外見にそぐわないというほどではない。


「水月のねーちゃんの趣味だろ」


「ああ、あのドS女のせいでな。アラタ知ってるか。俺は銃を持っている」


「将来の親戚だろ。上手くやれよ」


「あれがついてくるのかー……悩ましいな」


「その程度で悩むなよ。俺なんて将来このままいけば義兄が大輝だぞ」


「へいへい厄介事自慢じゃ負けますよ」


「それ以外でも負けてんじゃん」


「やるか?」


「身長」


「百六十」


「百七十七。次、握力」


「二十五」


「八十二。次、持久走」


「ブービー賞」


「学年一位。次、ソフトボール投げ」


「二十メートル」


「六十メートル。次、戦闘能力」


「体育会系ばっか出しやがって勝てるわけねーだろ帰宅部舐めてんのかお前」


「落ち着け落ち着け、ブラック葵出てるぞ」


 そう言われた途端、葵はしょげこむ。


「そうだな。俺、こういうキャラじゃないよな……もっと品があるというか」


「品のある人間は自分を品があるとは言わない」


「むがあああああおっしゃる通り」


「落ち着けって」


 葵は肩で息をしている。


「んで、俺いてなんか役に立ってるの?」


「王剣アラタの女を寝取ろうなんて奴はいないだろ? 一人だとナンパが多くてさ」


「自慢か」


「自慢に聞こえるか? 女装してモテて嬉しいか?」


「俺は羨ましいよ。俺は背高いし肩幅も広いから女装なんて無理だからな」


「えっ……」


 葵が頬を赤らめる。

 アラタは焦った。

 なにに焦ったかはわからないが、それには気がつきたくなかった。


「なんで赤くなるんだよ!」


「いや、なんかそう考えると俺って凄いのかなあって」


「凄いよ。女の顔で婚約詐欺して大金せしめて男の顔で生活してれば完全犯罪じゃん」


「褒めてねーよなお前基本」


「いや、褒めてるつもりなんだよな……ほら、俺真っ直ぐにしか生きれないから。言葉直球なんだわ」


「俺の周辺不器用な奴多すぎへん?」


「俺の妹も関西弁使うんだけどどっかで流行ってんの?」


「わからへん」


 そう言って、葵はアラタにもたれかかってきた。

 服がたわんであの肩が見える。

 綺麗な肌だ。


 なにに気がつきたくなかったか。

 それは、アラタが、葵を女性として綺麗だと思い始めていることだった。

 もちろん、葵のことは男だと思っている。

 けど、葵の外見は女の子のものではないかと思ってしまうのだ。

 自分でも矛盾していると思う。

 思うのだが、一度そう認識してしまったら仕方ないのだった。




+++




 二人はバスを降りて、ショッピングモールに辿り着いた。

 それをバックにして、二人で自撮りする。


「はー、ノルマ達成」


「今日はログボ貰えるの?」


 葵は、アラタからログボなんて台詞が出てきて驚いた。

 ログボ。ログインボーナスの略だ。主にソーシャルゲームでログインを促すために主催者側がアイテムを配っている。


「お前も平成人だったんだなあ……」


「なんだよ」


「いや。お前ってなんか古風っていうか質実剛健って感じだからさ。ログボなんて言葉を知ってるとは思わなかった」


「妹も勇気も響もソシャゲやるからなあ」


「あー、なるほどな。まあログボはもらえますよ。義姉さんの美容にいい食事が」


「うちの女連中が興味持ちそうな題材だな」


「味に配慮してない美容にいいだけの食事だぞ」


「……一応女連中にもラインしとくか」


「前々から思ってるけどなんかお前からラインとかログボとか聞くと違和感凄いんだよな」


「俺は現代人だよ。黒船来航も空襲も経験してない人生ぺーぺーだわ」


「けどしっかり推薦入学は取り付けてる」


「一芸しかないからな。俺は文武両道は無理だ。一つに集中してしまう」


「それが刀ってとこが古風なんだよ」


「うーん……けど現代の戦闘で役立ってるし」


「普通の剣士は銃弾斬れないんだよわかれよ!」


「うーん……けど師匠には及ばないし」


「よく勝てたなお前」


「師匠からしてみれば三連戦だからな。一戦目の痛みでコンディションを崩して、二戦目が翠さん。三戦目の俺達が出てくる頃には疲労困憊だったろうしな」


「あー、俺も青春してー。彼女作ってマフラー作ってもらいたい。なのに現実は送られるのがミニスカートってナニコレ拷問?」


「ある程度直しはしたんだろうけれどはけるお前もお前だぞ」


「それなー。あーなんでこんな倒錯した青春を送らねばならぬのか」


「それに彼女作って、って、水月さんいるじゃんよ」


「水月?」


 葵は空を仰いだ姿勢のまま目だけをアラタに向ける。


「彼女作ってオッケーなんだって。何事も経験だからって。これって相手にされてないよね」


「まあ何事も経験ってのは真理だな」


「エロい話か?」


「いや、修行の話だ」


「そうか、お前が期待通りの人間だとわかって安心したよ」


 そう言って、葵は俯いて溜息を吐いた。


「モテそうだけどな、お前」


「自分で言うのもなんだが顔はいいからちやほやされるぞ」


「本当に自分で言うのもなんだがだな」


「けどそれは小動物を愛でる感覚であって恋人じゃないんだよなあそれで何回も期待をぶち壊されてきたんだよなあ。その末路がこの女装だよ……」


「……言っておくけど俺はノンケだぞ」


「なんの得にもならない情報サンキュー」


「ああ、本当にいた!」


 女子が大声を上げる。


「響、ガツンと言ってやらなきゃ駄目だよ!」


「え、ああ、うん」


 見ると、自転車に乗った女子二人が傍で止まっていた。

 一人は、響だ。


 葵は血の気が引いた。

 ウィッグを脱いで女装趣味扱いされるか、このままとぼけるか。

 大きな選択が葵を待ち受けていた。




+++




 響としては、この状況は気乗りしなかった。

 むしろ、どうしてそういうことを積極的にバラしてくるのかなあという感想の方が強い。

 知らなければ響は凪のような生活の中にいられるのだ。

 知ってしまえばぶつからなくてはならなくなる。


 その時、スマートフォンが鳴ったので、響は咄嗟に画面を開いた。

 メールがきていた。葵からだ。

 開いてみると、目の前のカップルが、ショッピングモールをバックに撮った写真が添付されていて、僕は葵ですと一文が添えられている。


「っぷ」


 響は、ついつい笑ってしまった。


「行こう、千代。この子親戚の子だよ」


「え? だってあんたさっきまで気づかなかったじゃん」


「昔は小さい子だったから失念してた。ごっめん」


 そう言って、響は自転車をこいでいく。


「転ぶなよー」


 背後からアラタの声がする。

 苦笑する。

 いくら運動音痴だからって転ぶかよ。

 響は自転車をこいでいく。



+++



「と、いうことがあった次第です」


 僕は、粛々とした表情で一連の出来事を告げていた。


「このままでは女装がバレ、葵が女装趣味の人という噂が県下に一斉に流れるのも時間の問題かと」


「そうねえ……この遊びも楽しかったけど、知れ渡ってきたら厄介ねえ」


 女はそう言って、煙草の煙を吐いた。勢い良く回っている換気扇にそれは吸い込まれていった。


「で、アラタ? くんだっけ? 葵の女装はどうだった?」


「どうと言いますと?」


「綺麗だな、とか、可愛いな、とか思った?」


「お義姉様。こいつはそういう回路ショートしてるんで……」


「正直、肩のラインが綺麗だなと思いました」


「なに言ってんのお前? そういう目で俺を見てたの?」


「正直な感想だ。俺も修行が足りん。性別を誤魔化されるとは……」


「お前の道場お前の代で潰れちまえ!」


 葵は本気で引いているようだ。

 しかし、綺麗だと思ってしまったのだから仕方がない。


「肩のライン……吸血鬼……線が一つに繋がった!」


 そう言って、女は人差し指を高々と掲げる。


「今度の力作に君達使うから、良かったら見てね! 鈍感質実剛健に押しに弱い小動物系。王道極まりないわ」


「横道それまくってますけど?」


 葵が悲鳴のような声を上げる。


「力作……?」


 僕の呟きを無視して、女性は歩み去っていった。


「とりあえずわかったことが一つある」


「なんだ? アラタ。俺はお前の前で肩を出す服を一生着ないと決めたところだが」


「今日のログボはないんだな……」


「欲しかったのか……?」


「いやな。俺もヘアワックスとか色々つける時期かなって」


「髪の毛伸ばしてから言え」


 それにしても、目の前にいる少女の姿をした人間は綺麗だ。

 しかし、そいつは、同時に神楽坂葵という僕の親友なのだ。


 神楽坂葵の性別をあらためて定義したかった。

次回『楓と英治の飲み会』

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