俺は男だ!
一人の少女が、首から上しかない氷漬けにされた男の頭部に触れて目を閉じている。
いや、少女ではない。手首などのラインが、彼は男だと告げている。
それにしても、女装の似合う少年だった。
「あれ、どうしたんですか?」
翠が楓に問う。
「水月の姉に化粧されて服を着替えさせられて外歩いてこいって追い出された」
「スカートってすーすーします」
葵が若干泣きそうな声で言う。
「泣き言は聞かないわ。今日中に石神幽子の情報を探り当てて」
「そう簡単に言うけど、脳も切り離されてから結構経ってるしなあ……」
「ねえ、葵くん」
翠が興味本位で問う。
「なんでしょう?」
葵が戸惑うように訊く。
「下着は男物? 女物?」
「俺は男です!」
「それは知ってる」
「翠、邪魔しない。私も本当は遊びたいんだから」
「まったく……」
ぼやくように言うと、葵は作業を再開した。
そう、作業は進んでいく。
最終決戦に繋がる作業が。
+++
ネクロマンサーは体の大半を失いながらも生きていた。
蜘蛛の子を散らすようにばらまいた肉片。窓から外へと飛び降りたそれが生きていたのだ。
しかし、栄養がない。
数時間内に死ぬのは目に見えていた。
始まりはいつだっただろう。
そうだ、最愛の母の死。
それから、死体を蘇らせることに執着してきた。
思いは、力に変わっていた。
その時、下駄の音が鳴った。
下駄を履き、着物に身を包んだ少女がネクロマンサーの前に立ち塞がった。
「ご苦労様。あなたは兵隊を十分に作ってくれたわ」
そう言って、少女はネクロマンサーに手を差し出す。
ネクロマンサーは、少女の手に乗った。
この体を乗っ取れれば。
そう思った瞬間、怖気が走った。
少女はゴミでも見るような目でネクロマンサーを見ている。
「本当にご苦労様。死んでいいわよ」
少女の掌に炎が灯る。
業火に焼かれ、ネクロマンサーは死んだ。
第二十五章 完
今週の更新はここまでになります。
次の章は恭司を久々に出せたらなと思います。




