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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二章 冒険を、望んでいた
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ソウルイーター1

 山に入って一日目の夜を迎えた。

 僕は膨れ上がった登山用リュックを下ろす。


「チョコバー頂戴」


 響が頬杖をつきながら言う。

 僕は無言で、リュックからチョコバーを二本取り出すと、片方を響に渡して隣りに座った。


「カロリーはチョコで補給できる」


「水とか買わなかったけど大丈夫なのか? 旅慣れしてるから水源を見つけられるとか?」


「まさか。水源なんてわかんないわよ」


 響は苦笑すると、リュックからマグカップを取り出した。

 そして、掌をそこに近づける。

 次の瞬間、マグカップの上に掌サイズの氷の塊が乗っていた。


 そして、響は氷に触れてなにやら念じはじめた。

 氷が溶けて、水へと変わる。


「はい。水分補給して」


 そう言って、響は僕に水の入ったマグカップを渡してくれた。

 僕は目を丸くするしかなかった。


「凄いな、響は。氷と炎も使えるんだ」


「例外を除いて、スキルは超越者一人につき一つ。私のスキルは熱操作」


 自分の分の水を用意しながら、響は淡々と言う。


「じゃあ、俺に変身能力をくれたのは?」


「契約だから別ジャンル」


「ややこしいな……」


 頬杖をついて、情報を整理する。

 考えてみればおかしな点はある。それは、響は自分の怪我を治癒もしていたということだ。

 しかし、例外があるという話だし、おかしな点はないのかもしれない。


「それってつまり、俺にも特有のスキルが隠れてるかもしれないってことか?」


「そうね。そうなるわ」


「気になるなあ……」


「その人の才能はソウルイーターしか見えないわ」


「ソウルイーター?」


 響は悪戯っぽく笑った。


「人の魂やスキルを吸収して喰らう化物よ。あなたの近くにもいるかもね」


「ソウルイーターかぁ……」


「ソウルイーターにハートを掴まれれば、スキルを奪われる。あなたの変身能力も。だから、気をつけることね」


「わかった。ハートって、心臓か?」


「胸の辺りに浮いてるらしいわ。ソウルイーターにしか見えないの」


「じゃあ胸に手を伸ばしてくる奴がいたら危ないってことか」


「そゆこと」


 沈黙が漂った。


「響は、なにから逃げているんだ?」


「秘密」


「響は、なにを探してるんだ?」


「私の始まりの場所」


「始まりの場所?」


「誰にでもあるでしょう? 生まれた場所とか。私にとってそれは、あの海岸なんだってわかった」


「生まれた時じゃなくて、両親が出会った時?」


「うん、そう。それで、ちょっとホッとしたんだ」


 響は苦笑顔になる。


「君とも会えたしね」


 不意打ちの一撃に僕は頬が熱くなる。


「そして、もう一つの始まりに私はいかなくちゃいけない」


 響の強い意志の篭った言葉に、僕はなにも言えなかった。

 話題を変える。


「不寝番をしつつ寝よう。先に寝なよ。歩き通しで疲れてるだろう?」


「うん。そうさせてもらおうかな」


 そう言うと、響は横になった。

 そのうち、寝息が聞こえ始める。


 この少女を、なにがあっても最後の地まで護衛しよう。そう、僕は決意をあらたにした。



+++



 掃除の行き届いた教会の礼拝堂で、一同は集まっていた。

 恭司、楓、水月の三人だ。


「彼女が出張で暇でしょ、恭司」


 楓がからかうように言う。


「メール交換はしてるから」


「熱いなあ」


 水月が羨望の眼差しで言う。


「シスターだって相手選ばなきゃ結婚できるんじゃない?」


「んー。なんか上手く行かないんですよね。私、人と打ち解けるの苦手なんですよ」


「そうは見えないけどねえ」


「皆さんとは、命のやり取りをした仲だから、今更取り繕ったりはしませんけど」


 楓は苦笑する。その表情から、不意に感情が消えた。


「翠の活躍で、ソウルキャッチャーはその三割が捕縛されたわ。けど、まだ七割残ってる」


「そういやここらで暴れてたあいつも行方不明なんですよね」


「ろくでもないことしてなけりゃいいけどね」


 楓は投げやりに言う。


「撫壁も翠に預けてあるし、正味現状では奴を抑える術はないわ」


「その時は、帰ってきますよ」


 水月が、夢でも見るような表情で言う。


「あの人は、私達のヒーローだから」


 楓は苦笑した。


「そうね。まったくそうだわ」


 夜が更けていく。

 雑談は、続く。

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