復活
私が独房に行くと、翠が拘束された男と話している最中だった。
あの、猫の魂が入れられた男だ。
「つーわけで、連れ去られて、実験に使われたんでさ」
驚くことに、男は日本語を流暢に喋っている。
「そっか。場所とかはわかる?」
「それが、檻に入れられていたのでてんで検討がつきません。逃げ出す時も無我夢中だったし」
「周囲の光景とかは?」
「畑が広がっていた覚えがあります」
「そっかー」
「翠さん、いいですか?」
私が声をかけると、翠は快諾した。
「おいで」
独房の扉を開けて、中に入る。
「ソウルキャッチャーの力を使って、日本人の魂を一時的に移植した。それで、日本語は使えるようになった」
「はー、便利なんですねー」
「海外の人と話す時にも効くよ」
「羨ましい限りです」
「お姉さん、お帰りなさい」
男がそう言って、両手を床について猫のように座る。
「ただいま」
その鼻が、違和感を覚えたようにひくつく。
「……お姉さん、変です」
「なにが?」
「あの男の、匂いがする……」
「戦ってきたからかな」
「いえ。お姉さんがあの男そのもののような……」
背筋が寒くなった。
体の中に糸が張り巡らされる感覚。
私の体が、私のものでなくなっていく。
私の腕は上がり、男に向けられた。
炎が放たれ、それは翠に咄嗟に炎の壁で遮られる。
「君達は自分の体についた破片には無頓着だったからね」
私の口が、勝手に言葉を紡ぐ。
「体を、奪わせてもらった」
そう言って、私は警察署の出口へと駆け始めた。
次の瞬間、氷が私を覆った。
炎が体中から溢れ出してくる。
しかし、それも効かない。
スキルを無効化する氷。
中原楓のスキルだ。
「私がついていながら……不手際だった」
楓は沈んだ声で言う。
「スキルキャンセラーはもういないのよね?」
「東京へ、帰りました」
アラタの、淡々とした声だ。
私は、祈った。
私を殺してくれと。
悪の手先となって人々を傷つける前に、消してくれと。
表情だけでアラタには伝わるだろう。そう思った。
アラタは、日本刀を抜いた。
そうだ。それでいい。私は微笑む。
アラタは、なにかを探るように、目を閉じる。
「楓さん。氷、解いて結構です」
アラタが、淡々とした口調で言う。
「けど……」
「俺に任せてください」
楓はしばし考え込んでいたが、頷いた。
「なにか、考えがあってのことなのね」
「ええ、もちろん」
私の行動を阻む氷が溶けていく。
「フォルムチェンジ……!」
アラタの体が、白いフルフェイスヘルメットとスーツに変わる。
私の体は、炎を放った。
その時、アラタは既に、私を斬ってその背後に立ち日本刀を鞘に収めていた。
体に自由が戻ってきた。
けれども、傷跡が一つもない。
「不条理の剣を応用した、中断ち。内部の目標物のみ斬る技術」
私は、その場に膝をついた。
危ないところだった。
アラタがいなければ、どれだけ被害が拡散していたかわからない。
私は、アラタの背に抱きついた。
アラタは振り返って、私の体を抱きしめ、子供をあやすように髪の毛を何度も撫でた。
石神幽子の捕捉はまだだが、ネクロマンサー事件は峠を超えたようだった。
第八話 完
次回『帰還』




