不可解
私、響には不可解なことがある。
恋人のアラタが受験を前にしてもてんで勉強しないのだ。
今日も初詣だと深夜に神社の階段に並んでいる。
「あ、アラタくーん」
そう言って、少し下の段で楓が手を振る。有栖も相馬も一緒だ。
アラタは柔らかに微笑んで頭を下げた。
「あけましておめでとうございます、楓さん、相馬さん、有栖ちゃん」
「あけおめー」
「正月になると凄い人ですね」
「いいことだ」
「賽銭何円入れますー?」
「五円かな」
「ああ、いいですね。ご縁がありますように」
「人混み苦手なんだよな……」
と、相馬。
「なら留守番してれば良かったじゃない」
「ボディガードは必要だろ」
「ははは、無駄な心配してら」
アラタは私の顔を見て苦笑する。
そして、私の手を握った。
「今年は、多少状況が変わる。けど、大丈夫だ。義兄さんに俺がいない時の響のボディガードは依頼してある」
「気回して貰って悪いね」
「重要なことだからな」
大事に思われているのだ。それは変わらない。
けれども、どうにか違和感があるのは拭えなかった。
一日二日、アラタがいなかったことなんて前にもあったことではないか。
それでも、二人の時間を台無しにしたくなくて、問い詰める気は起こらなかった。
第一話 完
次回『企みがバレる時』




