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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十四章 プリテンダーを聞きながら
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私はあんたの嫁で、あんたは私の旦那だ

「今の英治さんの状態を言いますと、半霊ということになります」


「半霊?」


 良輔の言葉に、私と室長は耳を傾けていた。


「半分霊ということですね。体は飾りなんですよ。それを魂だけで動かしている」


「危機は去ったという認識で問題ないですか」


 室長が問う。

 良輔は微笑んだ。


「ええ、問題なく」


 私と室長は、胸をなでおろした。



+++



「よ」


 そう言って、私は超対室の自分の席に座っている相馬に声をかけた。


「よう」


 相馬はそう言って、片手を上げる。


「アイスブリッドの代金折半してくれね?」


「あー、ロマンのねー男。惚れ直したけど台無しになったわ」


「お。惚れ直したか。かっかっか、それはいい」


 愉快げに相馬は笑う。


「やけにタイミング良かったね」


「一応、心配だったからな」


「今日相馬、非番だよね?」


「一応、心配だったからな」


「有栖ちゃんのためか」


 からかうように言う。

 今は英治が蘇ったということでなんでも許せそうだ。


「違うよ。お前が、心配だったんだ。盗られるかもしれないと思ったしな」


「私が大事なんだ?」


 面白がるように相手の情報を引き出す。


「大事だよ」


 相馬は真剣な声で言って、私の手を握った。

 沈黙が、場に漂った。

 二つのリングが、手の中で触れ合った。


「お前は根本的な勘違いをしている」


 相馬は、俯いて、躊躇いがちにそう言った。


「なあに? 勘違いって」


「俺がプリテンダーを歌って泣いたのは、節子を思ってだ」


「勘違いでもないじゃない」


「節子は、俺のせいで運命の相手と出会えなかった。子供の世話に追われて、そのまま結婚もできずに死んでしまった」


 私は、黙り込む。


「俺は節子の人生を浪費させただけだ。そう思うと、自分が許せなかった」


 なんだ、そんなことだったのか。

 拍子抜けして、涙腺が緩む。

 私は泣きそうになりながら、相馬の頭を撫でた。


「馬鹿だなあ……」


 掠れた声で言う。


「その手の苦言なら私が節子に腐るほど言ったよ。それでも、節子はあんたを選んだんだ。節子の運命の相手は、あんただよ」


「いや、今は俺の運命の相手はお前だ。お前と出会うために、俺は色々な経験を経てきたんだ」


 相馬の手に、力がこもる。想いよ届けと祈るように。


「いつまで続くかわからない。けど、三人で暮らしていきたい。わがままだろうか」


 節子を過去のものとして扱うその口ぶりは少し気に食わなかったが、私は微笑んだ。


「忘れたかい?」


「なにをだ?」


 相馬は戸惑うように言う。


「私は、あんたの嫁で、あんたは、私の旦那だ。最後まで二人でやっていこう」


 相馬は私を抱きしめた。

 私は、目から涙が一筋流れ落ちるのを感じていた。


(さようなら、英治。次会う時は、ただの友達だ)


 そう、心の中で一つ呟く。

 こうして、私の近辺を脅かす一連のすれ違いや騒動は完結したのだった。



第九話 完

次回『足が棒になるクリスマス』

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