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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十四章 プリテンダーを聞きながら
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ソウルキャッチャー

「俺夜勤明けで寝てたんすけど」


 超対室の扉を開けた大輝の一声がそれだった。

 不満のこもる一言だ。

 私はその腕を掴んで独房へと向かった。


「あんたが巻いた種だ」


「と言うと?」


「英治の魂はまだあなたの中にいる?」


「ええ。肉体が既に火葬されていたので残ってます」


「グッド」


 私は万感の思いを込めて言う。

 大輝は戸惑うような表情になる。


 独房の鍵を開ける。

 英治が、戸惑うようにベッドから腰を上げた。


「どうした? 楓。そいつは誰だ?」


「大輝。魂を英治に返して」


「そういうことか」


 納得したように、大輝は英治に手を当てた。

 手に光が輝いて、英治の中に吸い込まれていく。


 私は、英治の手を取った。

 温もりがある。

 私はその場で崩れ落ちて、泣き始めた。


「おい、どうした楓。なんで泣いてるんだ?」


 そして、英治はふと気がついたように呟いた。


「なんか、凄い眠い。ここんとこ寝てなかったからかな……」


 そう言って、よろけるようにベッドに座り込んで、横になる。


「ちょっと寝かせてくれ」


 そう言って、数秒も経たぬうちに、彼は寝息をたて始めた。

 私はふらつきながら立ち上がって、片手を大輝に向かって上げる。

 大輝は、その手に自分の手をぶつけた。

 乾いた音が鳴った。




+++




「ソウルリンクを切った場合、どうなるかはまだわかりません」


 良輔は、躊躇いがちにそう言った。


「元の死体に戻る可能性もあるということですか?」


「体内の生命エネルギーが送られてくるエネルギーの代替として機能するかどうかです」


 良輔は手を組む。


「なにぶん初めてのケースだからなんとも言えないんですよ。ただ、言えることは、ソウルリンクを切らないことには彼は操り人形のままだと言うことです」


 沈黙が応接室に漂った。

 良輔が茶をすする音が、小さいはずなのに大きく響き渡る。


「切ろう」


 私は、決意をこめて言っていた。


「英治に人生を返す。そのために私達は奔走していたんだ」


「そうだな。全部、俺のせいだ。できる限り協力はする」


 大輝は珍しく、愁傷に言う。

 そして、私達は英治の独房へ行った。


 独房の鍵を開けて、中に入る。


「英治。ちょっと失礼するね」


 真っ暗な部屋の中に、そう言って入っていく。


「これだ」


 ソウルリンクの糸を、大輝はいち早く発見して拾い上げる。

 運命の赤い糸のように呪われたその糸を、大輝は両手で握りしめる。


「いいか?」


 私は、室長の顔を見る。

 室長は、無言で頷いた。


「やって、大輝」


「おうよ」


 その時、私達は異能の気配を察知してその場から飛び退いた。

 大輝が両手を置いていた位置に、炎が迸った。

 英治が体を起こす。

 その表情には、怒りが浮かんでいた。


「ソウルイーター……俺と楓を引き裂いた男」


「今は違うんだよ、英治! 英治を治してくれるためにここまでやってきたんだよ!」


「お前まで味方をするのか、楓!」


 炎の壁が迫ってくる。

 大輝が私の前に立って、炎の壁を作って相殺する。

 英治は、ドアの外へ向かって駆けていった。


「完全に操られている……」


 良輔の声が、場の緊迫感をさらに強いものにした。



第七話 完


次回『炎使いは踊るように』

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