デート
その日、私は英治の外出許可を得て外へ連れて行った。
「あー。見たかった映画あらかた終わってんなあ」
英治が残念そうに言う。
「DVDになってるさ」
「そんなに時間が経ってるのか?」
「うん。結構ね。長いこと、君はいなかった」
「そうかー……俺の部屋ってもうないよな?」
「ないだろうねえ」
「お前の家で見れない?」
私は、一瞬慌てた。
相馬の家は、私達一家の領域だ。
そこに、英治を入れるのは違和感がある。
「私の家、DVDプレイヤーないんだ」
さらりと嘘をつく。
「そうだっけ。PS4なかったっけ」
「PS5が発売されそうだから売った」
「そんなに経つか」
感心したように英治は言う。
心音が高鳴っていた。
英治が横にいるだけで、私の心音は高くなる。
けど、この気持ちが成就することはない。
相手は死体だ。
(それに、私には……)
相馬と有栖の姿が脳裏に浮かぶ。
私はもう、自分の居場所を持っている。
なら、英治はどうなる?
一人きりだ。
「なんか甘いもの食べたくなったな」
「お前そればっか」
英治はからかうように笑う。
「五月蝿いなあ。スイーツ食べに行こうよ」
「いいぜ」
英治は、大盛りかき氷を美味い美味いと言いながら平らげた。
+++
帰ると、英治は独房に案内された。
外出先で何か変化がなかったか、などを専門のカウンセラーに説明する。
「かき氷を美味しい美味しい言いながら食べてましたよ。冬なのに」
カウンセラーは、眼鏡の位置を直した。
「それはおかしいわね」
私はその数分後、独房へ向かって駆けていた。
ノックをすると、ドアの隙間から英治が顔を覗かせる。
「どうしたんだ? なんか忘れ物でもあったか?」
「あんた、味、わかんないんだってね」
英治は黙り込む。
「睡魔もないし、読書をする気力もない」
英治は、返事をしない。
「なんで正直に言わなかった?」
最後は、叫び声だった。
「お前を苦しめたくなかった」
私はその場に崩れ落ちる。そして、手で辛うじて体を支えて嗚咽を漏らした。
「泣くなよ。俺が泣かせたみたいだろ」
困ったように英治が言う。
「この涙は、あんたの涙だ」
私は、負け惜しみのように言う。
「必ず、あんたを万全の状態にしてみせる。絶対だ」
決意を込めて、私は言っていた。
「期待はしてないよ」
英治は、苦笑交じりだとわかるような口調でそう言った。
「多分、俺が復活したのには意味があるんだ。それも、きっと良い意味ではない」
「それを捻じ曲げるっつってんだろ」
「そうか……」
英治は躊躇いがちに言って、独房の奥に戻っていった。
私の胸には、強い決意が宿っていた。
第五話 完
次回『ネクロマンサー』




