亀裂
家に帰ると、料理ができあがっていた。
なんだろうと思うと、エプロン姿の相馬と有栖と鉢合わせした。
無言で写メを撮る。
「なんだよ」
相馬は不可解気な表情で訊く。
「シークレットレアスチルゲット」
「馬鹿言ってら」
「そうだよ、馬鹿なんだよ」
そう言って、私は涙をこぼした。
相馬が、ゆっくりとした動作で私を抱きしめる。
「馬鹿なんかじゃないさ。こんなこと、誰にも予想できることじゃない」
「うん」
「ママ、どうかしたの?」
有栖が不思議そうに問う。
「ううん。ご飯食べましょう」
そう言って、私達は家族の晩餐を楽しんだのだった。
+++
夜。
三人でソファーに座ってテレビを見る。
有栖は睡魔に負けて、相馬の肩に頭を預けて寝ている。
「英治と面会してきたよ」
心音が高くなる。
「そうか」
相馬は、そうとだけ言う。
「それだけ?」
私は呆れ混じりに言う。
「幼馴染だ。話したいことはあるだろう。これも、神様が与えてくれた機会だ」
「そうだね。あんたは節子がいればそれでいいんだ」
「なんだよ、それ」
冷静な相馬が気に食わなかった。
恋敵が現れて少しは焦ってほしかった。
「なに? この前のカラオケ。涙なんて流して。あんたの運命の相手は節子だったんだろうけど、付き合わされる私が迷惑だわ」
「そんなこと……考えてないよ」
相馬は俯いて、手を組む。
「なら、なんで泣いたの?」
「そうさなあ……」
そう言って、相馬は天を仰いだ。
「まあ、言い辛い話だわな」
「話しなさいよ」
「知ってるだろ。男は見栄を張るんだ」
「女だって見栄を張るわよ」
「ワインでも飲もう」
そう言って、相馬は有栖を抱き抱え、寝床へ連れて行く。
その日のワインは、少しも美味しくなかった。
第四話 完
次回『デート』




