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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十四章 プリテンダーを聞きながら
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幻のような

「目に見えた異常はなかったわね」


「帰るか」


 深夜の覆面パトカーの中で私と相馬は話し合って結論を出した。

 相馬のハンドルさばきに合わせて車が警察署への進路を走り始める。


「この前の話だけどさ」


 思い出すだけで、顔が熱くなる。


「うん」


「私、赤ちゃんに興味ないから」


「有栖の世話焼いてるの見るとそうは見えないけどな」


「有栖ちゃんは女の子。赤ちゃんとは違うわ」


 頬杖をついて窓の外を眺める。


「私は節子にはなれない」


「そんなこと望んでないよ」


「そうかしら?」


「なにが言いたい」


 相馬が疲れたように言う。

 色々な感情が口から激流のように流れ出しそうだった。だから、私は心の中で蛇口を閉める。


「なんでもー」


 出てきたのは曖昧な誤魔化しの言葉だった。

 相馬は黙り込む。

 それはそうだろう。誠実な返事ではなかった。


 その時、道から人がよろめきながら歩いてきて、相馬は急ブレーキを踏んだ。

 体が前のめりになり、シートベルトが食い込んでくる。


 そして、私たちはシートベルトをはずし、外に出た。

 よろめいていた人は、座り込み、地面に視線を向けている。

 その横顔を見て、はっとした。

 そんなわけがない。

 そう思いながらも、こんなに似ている赤の他人が身近にいるだろうかという疑問が湧く。


「英治……?」


 英治によく似た顔を男性は、こちらを見て安堵したように微笑んだ。


「楓」


 そして、英治によく似た男性は、その場に倒れ込んだ。


「……どうしたもんだろな」


 相馬が、困ったように言う。


「パトカーの後部座席に乗せて連れていきましょう」


 私は心音が高鳴るのを隠すように、淡々とした口調で言う。


「罠だったら?」


「仕掛けた奴をぶちのめすだけよ」


 私は低い声で言う。

 私に英治を使って罠を仕掛けるなんてそんな残酷なこと許される訳がない。


「一応周囲、確認しとく」


 そう言って、相馬は空を飛んで周囲を眺めた。

 のんびりしていた空気は一変。緊迫した空気が周囲に漂い始めた。




+++




 取調室から刑事とサイコメトラーが出てきた。


「英治はどうですか」


「……限りなく本人に近い人間でしょうね」


 サイコメトラーはそう言う。


「歯切れが悪いですね」


 私は戸惑いながら聞く。


「確かに彼の記憶、性格は英治さんです。けど、死者が復活する道理がない」


「ネクロマンサーが何処かにいると……?」


「そういうことですね。あと、彼は自分が死んだという自覚がありません。ソウルイーターの不意打ちで死んだようなので」


 サイコメトラーはそう言うと、去っていった。

 なにはともあれ、英治は復活したのだ。

 ネクロマンサーがなにを考えているかはわからないが。


 私は、許可を得て、取調室に入った。


「……よっ」


 緊張しつつ、声をかける。


「よう」


 英治は柔らかく微笑んだ。

 一瞬で、いつもの二人の空気になる。

 それは、相馬とはまだ共有できない感覚だ。


「どうしたのさ。ずっと見なかったけど」


「それが俺も不思議なんだけどな。通りすがりの相手とすれ違ったと思ったらそこから記憶がないんだ」


「あんた年単位で行方不明だったんだよ」


 目尻に、涙が溜まる。


「やっと帰ってきたね、英治」


「そうか。心配かけたな」


 そう言って、英治は手を差し出す。

 私は、その手を握る。

 そして、形相を変えそうになった。

 死人の、冷たい感触がする。


「まあ事情が事情だから戦線に復帰するのは先になるだろうけれど、期待して待っててくれ」


「うん、そうするよ」


「ああ、あと」


 そう言って、英治は私の手を握る力を強める。


「俺のスキルを預かっててくれてありがとう。返してもらうよ」


 私の中からなにかのエネルギーが吸い取られていく感覚があった。

 こうして、私は炎のスキルを失った。

 これも、普通の超越者にはできないことだ。

 しばらく、黙り込む。


「いいってことよ」


 そう言って、笑顔を作って、私はその場を後にした。

 心音が高鳴っていた。

 私は、恋をしていた。



第三話 完

次回『亀裂』

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