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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十四章 プリテンダーを聞きながら
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女子会

「ということがあったのよね」


 ことのあらましを話した私は、ラテを一口飲む。

 ショッピングモールの喫茶店だった。


「相馬さんでも泣くことがあるんですねえ」


 翠が戸惑うように言う。


「私もそれで二重ショックだわ。感情なんてない奴だと思ってた」


「それは言い過ぎでは」


 シスター水月が苦笑する。

 そして、言葉を続ける。


「死者と戦おうとしても駄目ですよ。死者は常に美しい記憶とある。心の中で完璧な存在に昇華されるんです。楓さんが悪いとかいうのではなく、相手が悪い」


「まあ、私だって節子のことをすっかり忘れられてたらキレるけどさぁ……結婚した後に離別を考えられてたっつーのがショックでショックで」


「解釈違いということもあるかもしれませんよ」


 水月が言う。


「自分と結ばれなかった相手。節子さんを想って泣いたんじゃないでしょうか」


「それはそれでムカつくのよね。仕方ないけれど」


 節子と相馬は仲の良いカップルだった。

 過去を思い出してセンチメンタリズムに浸るのは仕方ない。

 ただ、今、相馬の嫁は私、楓なのだ。

 いつまでも過去を引きずられていたら困る。


「満足してないってことなのかなぁ……」


 私は頬杖をつく。


「泣くとはな」


「これから楽しい思い出をたくさん作っていけばいいんですよ」


 翠が励ますように言う。


「そしたらきっと、相馬さんの中の節子さんも小さくなっていくはずです」


「それはそれで複雑なんだけど……ああ、もう、なんでこんなややこしい相手と結婚したかな」


「電撃結婚過ぎてこっちが聞きたいです」


 呆れたように言ったのは翠だ。


「ああ、愚痴を聞いてくれる相手がいるってのはいいもんだなあ」


 私はそう言って、ラテの入ったコップを口元に運んで傾ける。


「まあ、お互い色々ありますからね。私は恭司のオタク趣味に困ってるし、水月は結婚相手が未成年だし」


「将来の結婚相手です。それも口約束で婚約した程度の仲ですが」


「いいのー? そんなこと言っちゃって。葵くん泣いちゃうよ」


「強い子に育ってほしいものです」


 水月は悪戯っぽく微笑む。

 子供を育て始めてから、日に日に水月はたくましくなっているように思う。

 こういうのを見ていると、子供を持つのも悪くないかなと思うのだ。


 私のもとに有栖が来た時、彼女はもう物心ついていた。赤子の育児の苦労を私は知らない。

 けど、相手が相手だ。今は子作りなんて考えるのも馬鹿らしかった。



+++



 有栖の寝息が部屋に響いている。

 相馬がソファーから有栖を抱き上げて、布団に寝かせた。

 そして、彼は私の隣に座る。


 肩を抱かれて、私は咄嗟に彼の手をつねった。


「いてっ」


 彼は手を引っ込める。


「……俺、なんか悪いことした?」


「べっつにー」


 そう言って、両足を持ち上げて抱える。

 運命の相手と思われていないのならば、いちゃつくのも馬鹿らしい。


「俺さ。お前には悪いと思ってるんだ」


「なにが?」


「節子との子供の世話をさせて。お前の子供はいないのに」


「自分で望んでしたことだ。悔いはないよ」


「……作らないか? 俺達の子供」


 相馬は、真剣な目で私を見る。

 私は顔が熱くなるのを感じた。


「馬鹿言わないで。私も寝るわ。明日も早い」


 そう言って、私は立ち上がると、有栖の横の布団に入り込んだ。

 相馬はソファーに座ってテレビを見ている。

 今となってはお馴染みとなっている安らかな夜の時間。

 今日は、テレビの音がやけに大きく聞こえた。



第二話 完





次回『幻のような』

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