主人公補正でもやったことは覆らない
僕がアラタの病室を訊ねたのは、事件が置きてから三日ほど経ってのことだった。
僕の記憶は超対室にとって有益だということで、三日間記憶を探られ、ただ嘘をつかれて利用されただけだということ、未成年だということ、二度と軽はずみなことはしないと誓うことで開放された。
監視はつくらしいが。
甘い判断かと思われるかもしれないが、僕もそう思う。これが強化された主人公のスキル効果なのかもしれない。
「片腕持ってかれた経験ってそういやないかもな」
アラタは悪戯っぽく笑ってそう言った。
「いや、つくづくすいませんでした」
僕は頭を下げる。
「そうです。私も軽はずみでした。本当に申し訳ない」
右京も並んで頭を下げる。
「へっへっへ」
アラタは悪戯っぽく笑う。
「東雲流奥義見たった。こりゃ次当たる時も勝っちまうかもな」
「私も最初は九十九赤華の伝授はどうかと思ったんですが……どうも甘くなるんですよね。これも主人公の効果でしょうか」
「いやなー。俺もそのスキルを持ってるって言われて、色々考えて、結論を出したんだが」
アラタはそう言って、窓の外を眺める。
「主人公だって死ぬときゃ死ぬんだよな。だから、このスキルは、ただきっかけを与えてくれるスキルなんだと思う。自分を変えるきっかけを」
「結構厄介事に引き込まれてる気もしますけどね」
「それは否定しない」
アラタは悪戯っぽく微笑む。
「けど充実してるんだ。俺、今、なにしてると思う?」
「なんでしょう?」
「銃弾を斬る練習」
この瞬間、僕は、いくら補正があってもこの人の域には届かないだろうなあと思ってしまったのだった。
主人公は敗北した。清々しいほどに心地よく。
+++
「慎一郎先輩、頑張ってー!」
今日も黄色い声が飛ぶ。
サッカー部のフィールドで、僕はボールを胸でトラップしたところだった。
そして、ドリブルを始める。
風を切って駆ける。
一人抜き、二人抜き、三人抜いたところで二人に囲まれた。
そこを、ループシュート。
必死に手を伸ばしたゴールキーパーの努力も虚しくボールはゴールに吸い込まれた。
さらに黄色い声が上がる。
帰り道、剣道部に入った右京と一緒に並んで歩く。
「平和はどうかね、主人公?」
「よしてくれよ」
「けど、また何かトラブルに巻き込まれるのかもしれないね」
右京は寂しげに前を向く。
「そうさなあ。まあ、主人公の運命だと思って諦めてる」
「訓練は続ける?」
「右京が、俺に羽ばたく翼をくれたんだ。俺は努力を続けるよ」
「そっか」
右京の声は、心なしか弾んでいるように聞こえた。
日常は続く。
主人公は新たな冒険を前に、束の間の休息の中にあった。
第二十三章 完
今週の更新はここまでです。




