主人公
「一つ、提案があるのですが」
「なにかしら」
幽子の言葉に、巴は冷たい目で答える。
「スキルキャンセラーの巴さんですよね。私達が争っても決着はつかない。勝負は、あの二人に任せはしませんか?」
「私がダガーナイフを持ってきたら私達の勝ちだけど?」
「なら、その間に私は仲間の援護に回りますが?」
幽子は優雅に笑い、巴は不服気な表情になる。
日本刀のぶつかる音が響き始めた。
「アラタくん、フォルムチェンジを!」
女性が叫ぶが、アラタは聞いてはいない。
対等の条件で戦おうとでも言うかのように。
「これが、スキル、主人公です」
幽子が淡々とした口調で言う。
「主人公?」
巴も、女性も、怪訝な表情になる。
「主人公補正とでも言いましょうか。チャンスが転がり込んでくる。もちろん、成就させるには本人の努力も才能も実力も必要ですけどね」
「それを彼は持っていると?」
「ええ。アラタくんも、またそうですが……」
幽子の言葉に、巴と女性は目を見開いた。
「覚えはありませんか? 彼との引力のようなものを感じたことはないか。これは、主人公と主人公の対決なのです」
「同じ炎使いでも、スキルの強弱はある」
巴は、淡々とした口調で言う。
「アラタとあなたのマイ・ボーイ。どちらの主人公が格上なの?」
幽子は静かに微笑んだ。
「ほぼ、互角です」
第九話 完
次回『激しい剣戟の中で』




