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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十三章 スキル『主人公』
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一ヶ月

 一ヶ月が過ぎた。

 僕はというと、授業中は寝て、夕方からは庭で訓練するという昼夜逆転の生活を続けていた。

 普通に過ごしていれば色々とイベントが起こるのだろうが、それを全てスキップしているような状態だ。

 それでも部活をしているだけで周囲の視線は集まるようで、榊先輩頑張れ、なんて黄色い声が聞こえてきたりするようになった。


(主人公補正って強いな……)


 そんなことをしみじみと思う。


「ほら、ボケッとしてないで榊、スプリントだぞ!」


「はい!」


 そして僕は、顎を思い切り打ち抜かれた。

 あまりの痛みに地面を転がりまわる。

 周囲はグラウンドではなく、東雲家の庭だった。


「……部活中の夢でも見てたの?」


 木刀を持った右京が呆れたように言う。


「おー。目が覚めた。サンキュー」


「一赤華なんて初歩の技喰らうなんて相当だよ」


 呆れたように言われる。

 一赤華。

 剣の切っ先をワープさせて相手にぶつける技。


「次はちょっとは真面目にやる!」


 そう言って、三赤華を放つ。

 三本の竜の爪のような横薙ぎの攻撃。


「そうこなくちゃね」


 十六赤華で返される。

 十六赤華。剣の囲いを作って相手の剣を防御する技である。


「んぐ、二赤華!」


 刀身が消える。それは剣の囲いを通り過ぎて、再び現れ、二本に割れて相手を襲った。

 それを弾くと、右京は僕の胴を勢いよく叩いた。

 胴を抑えて、蹲る。


「どうしても技量での差が出るなあ」


「運動神経はそっちのが上だよ。最低限のトレーニングはしてたんだね」


「サッカー部に未練たらたらだったからなあ……」


 胴を抑えたまま、寝転がって天を仰ぐ。


「大体完成だよ」


「大体、か」


「基礎を教える時間はなかったからそれは我流に近いからね。我流なりによくやってるよ」


「ついぞ右京に一本も取れなかったな」


「この昼夜逆転生活で非現実な技の数々を見て狂気に染まらなかったのは賞賛に値すると思う」


「木刀が増えたり減ったりする夢を何度も見たよ……」


「……結構際どいセン行ってたんじゃない?」


「かも」


 僕は微笑む。

 右京も、剣を杖のようについて、小さく笑った。


「プレゼントだ」


 そう言って、右京は木刀を指す。


「その木刀を常備するんだね」


「相手が真剣だったら?」


「三十六計」


「なんだよ」


「逃げるにしかずって言うでしょう?」


「なるほどね」


「その必要はないわ」


 そう言って、その場に下駄の音が鳴った。

 石神幽子。

 赤い着物の少女が、そこには立っていた。


「これを使いなさい」


 そう言って、幽子は棒状の包みを僕に投げた。

 受け取ると、ずしりとした重みがある。

 開くと、日本刀が入っていた。

 右京が胡散臭げな表情になる。


「銃刀法違反で捕まらない?」


「バックに入れれば剣道少年にしか見えないでしょ。それに慎一郎のスキルは主人公。主人公が銃刀法違反で捕まる?」


「そういう物語だってあるわ。バッドエンドで終わる奴でもいいし、獄中生活を記したものでもいいし」


「それともう一つ提案があるわ。私達のアジトに来ない? 慎一郎」


「アジト……?」


「日常生活とはオサラバだけど、対ソウルイーターの決戦に皆が腕を磨いているわ」


「ちょっと待ってほしいんだけど」


 右京が片手を上げる。

 幽子は微笑んで応じる。


「なにかしら」


「ソウルイーター事件について自分なりに情報を貰ったわ。その首魁は、石神勇人。あなたの名前はなんだったかしら」


「石神幽子」


「こんな偶然あるって思う?」


 右京の鋭く細められた目が赤く輝く。

 幽子は肩を竦めた。


「逆に聞くけど、そんな不利な情報わざわざ自分から吐くと思う?」


「嘘つきは嘘の中に本当を混ぜるんだ。だからタチが悪い」


「じゃあ聞くけど、石神の親戚に十代の女の子はいたの?」


「それは……いなかった」


「それに石神は四十代。私はどう見ても十代。歳が離れすぎているわ。流石に兄妹と言うには無理があるでしょう」


 右京は不満げだが、黙り込んだ。


「そんなに不満だと言うならば、連れて行ってあげましょう。ソウルイーターの元へ」


 突然の展開に、僕は戸惑いを隠せなかった。

 僕を主人公としたストーリーに、新たなイベントが起ころうとしていた。



第七話 完


次回『剣士対剣士』

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