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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十三章 スキル『主人公』
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一方その頃

「東雲流剣術か島津流剣術を学んだほうが良い気がするのですよ」


 巴の思いもしない一言に、アラタは落胆した。


「東雲流にも島津流にも師匠を超える剣客なんていませんよ」


「初歩としてです。この二つの流派の特徴として、条理を覆す技がある。特に東雲流はその色が濃い」


「経験則ですか?」


「いえ、幸い当たることはありませんでした」


「幸いと言うと?」


「当たったら、どちらかが死体になって怨恨沙汰になっていたからです。至極単純明快な答えでしょう?」


 つまらなさげに言う。


「けど、俺、東雲流の技を見切った経験もあるんですよ」


「それは興味深いですね」


「十赤華って技を一回見て弾きました」


「しかし、東雲流剣術はかつては妖術とされたほど手管が多い。色々と見て、現実と非現実の境目を曖昧にしておくべきです」


「それは、夢と現が混ざるような……?」


 巴は遠くを見る。


「正気で修行を終えれられるかは私も保証しかねますが」


「……恐いこと言うなあ」


「退きますか?」


「いえ。俺は色々な戦いを乗り越えてここまでやってきた。新たな困難が目の前にやってきたと言うなら、乗り越えるだけです」


 巴は唇の両端を持ち上げた。


「それでこそです」


 そして、巴は歩いて、道場の扉を開けた。

 そこには、思いもしない人物が立っていた。


「私のもう一人の新しい弟子を紹介しましょう」


「はあーい、アラタくーん」


 吹雪が満面の笑顔で手を振っていた。

 アラタは、しかめっ面になった。


「なんであんたがここにいる?」


「いやあ、巴さんって今や特権階級だから色々無茶が効くのよ」


「師匠って偉い人なんですねえ……」


「偉い人、の護衛です。自然と親しくなり、その偉い人に無茶を言ってもらうことは可能ですが」


「師匠、そこら辺不器用そうですけどね」


「否定はしません。しかし、努力はしています。吹雪。アラタに東雲流の妖術、あらかた喰らわせてくれますか」


 吹雪の目に赤い光が宿った。


「全て返されては沽券に関わります。全力でいくけど、よろしくて?」


「それぐらいじゃなきゃ修行にゃならんよな……いいよ、好きに殴ってくれや」


 アラタは全てを諦めて、手に握っているものの他に木刀をもう一本握った。

 そして、数秒硬直する。


「竹刀じゃだめか?」


「危機感も大事なエッセンスだから木刀です。けどできるだけ頭は打たないようにね」


 多少の怪我ならアラタも回復スキルが使えるから大丈夫なのだが、それを差し引いても優しいんだか厳しいんだかわからない。


「じゃあ、行きましょうかアラタ。不条理の世界へ」


「……ただで喰らう気はないからな」


「大丈夫だよ、アラタくん。十赤華が上位の奥義だもん。これから放つ技の数々はそれに劣る。ただ」


 吹雪は目を細める。


「全て受けて正気でいられるかは保証できないな」


 アラタは、呼吸を大きく吸って吐くと、吹雪に向かって木刀を投げた。

 吹雪は迷うことなくそれを握りしめる。


「いっちょやるか」


「うん。いっちょやろう」


 気だるげな口調とは裏腹に、互いのプライドを懸けた火花が道場に散った。




+++




「榊、榊……」


 呼ばれて、僕は慌てて木刀を構える。

 しかし、手には木刀なんてなくて、シャーペンが空中で回転して机に落ちた。

 笑い声が上がる。


「サッカー部に入って大変なのはわかるが、授業中の居眠りはいただけないな」


 教師が不敵な視線を向けてくる。


「それでは、天動説について説明してくれるかな」


 教師の粘ついた視線が僕を絡め取る。

 天動説。お手軽だ。中学でも習ったのを覚えている。


(あれ?)


 天動説が地球を中心にして宇宙が回っている説で良いんだよな。

 逆だったっけ。

 そんな混乱が頭の中に訪れる。

 うろ覚えとは恐いものだ。


 右京が自分のノートをテーブルの端に滑り込ませた。

 それを見て、なんとか答えることができた。


「いいとしよう」


 教師はつまらなさげに言うと、次の解説に移った。


「右京っていつ寝てるの?」


「私四時間寝れば動ける体質だから」


「長距離トラックで一儲けできそう」


「今って払いいいのかねえ」


 授業を無視し、小声で話し合う。

 青春してるって感じだった。

 この後には、部活動と訓練が待ち受けているのだが。


 主人公は厄介事も身に受けなければならない。

 僕はほんの一瞬だけ、顔を覆った。



第六話 完

次回『一ヵ月』

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