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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十二章 魔法少女は夢を見ない
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師匠

「師匠ーそこのクレープ屋くっそ美味いんですよ」


「そうですか。私の分も食べていいですよ」


「師匠ー今やってる映画あの大作映画の続編なんですよ」


「そうですか。私の分も楽しんでください」


「師匠ーあこ猫の集会場で」


「猫の餌食べてきていいですよ」


(なんなんだろうこれは)


 翌日、巴は既にアラタと行動を共にしたことを後悔し始めていた。

 師匠師匠と犬のように懐いてくる。

 対応も自然と冷たいものになる。


 しばらく周囲を警戒して調べていたら、いつの間にかアラタがいなくなっていることに気がついた。

 塩対応を続けられて萎えたか。

 それも仕方ないか、と歩き始める。


 騒がしい犬がいなくなると、何故か少し心寂しい気分になった。


「はい、師匠」


 そう言って、アラタがクレープを差し出してきた。


「あ、ありがとう……」


 戸惑いながらそれを受け取る。


「葵のサイコメトリー能力で敵はこの地のホテルに転々としながら泊まったことは確定した」


 アラタは、そう言って自分のクレープを一口食べる。


「もっと肩の力抜いていきましょうよ」


 巴は思いもしない言葉に戸惑う。

 その間に、アラタは言葉を重ねていく。


「見つかる時は見つかる。スキルキャンセラーはスキルユーザーを探知できるんでしょう?」


「ソウルキャッチャーもそれをできるはずなんですけどね」


「そうらしいですねえ」


「なんで斎藤翠を頼らないのかしら。理解に苦しみます」


「まあ、あの人はいつ本庁に行くかわからないところですからね」


「そうですね。あれほどの人間が地方にいるということのほうが不思議です」


「さ、師匠。一口一口」


 巴は、クレープを見つめてしばし考え込む。

 そのうち、期待の視線で眺めてくるアラタに根負けしたように一口食べた。

 甘い。

 集中力が増した気がする。


「不思議ですね。集中力が増した気がします」


「そりゃそうですよ師匠。朝ご飯も食べてないじゃないですか」


 不服だったが、事実だったので、黙々とクレープを食べる。


「あー、もっと味わって」


「私にとって食事は栄養摂取です。それ以上でもそれ以下でもありません」


 そう言って、指についたクリームを舐める。


「けど、美味しかったでしょう?」


「……ええ、まあ。ところで師匠ってなんですか」


「俺は我流ですからね。どうやっても勝てない相手が現れたら師匠と仰ごうと決めていたんです」


「つまり、私と会うまではどうにかなる相手ばっかりだったと」


「そうなりますね」


 遠距離戦、中距離戦、近距離戦。様々ある戦場でこの子はどんな戦いをくぐり抜けてきたのだろうか。そんなことを思う。

 剣で生き抜いてきた。それが彼の強さの象徴のような気がした。


「あなたの戦歴に興味が湧いてきました。ちょっと話してみなさい」


「仲間の協力あっての勝利、みたいなのが多いですけど」


「かまいませんよ。話しなさい」


「わかりました」


 朝の町を二人は歩く。

 犯人が見つかる目処は立たない。




+++


「師匠はなんの復讐に来てるんですか?」


 アラタが訊くと、巴はしばし黙り込んだ。

 二人は寂れた町並みを歩いている。


「まず、父が死んだ。私はそれを感じ取っていたけれど、怖くて何もできなかった」


 アラタが、息をのむ。


「残った家族は台所に集められた。そして一人ずつ刺されていった」


 巴は、そこで口ごもった。

 しかし、そのうち意を決したように言葉を放った。


「それでも私は、怖くて何もできなかった。相手のスキルが私を傷つけることがないとわかって安堵すらしていた。そして、炎のスキルで家を燃やされ、やっと必死に動き出した」


「仕方のないことですよ、師匠」


「けど、私はそうは思えない」


 巴は剣呑な表情で前を見ている。


「奴はスキルキャンセラーの存在を知らなかった。きっと末端の兵士でしょう。そこから本隊を引きずり出す。それが最終目標です」


「協力しますよ」


 アラタは、ただそう言った。

 言葉が、思いつかなかった。

 この不憫な少女に何を言えばいいのだろう。


「ついてくるならかまいません。邪魔をするなら置いていきます」


 そう言って、巴は前を行く。

 その姿は、気負い過ぎなようにアラタには見えた。


(まあ、しゃーないわな)


 その憎悪から彼女を救えるのは、彼女だけだ。


+++



「なに、これ……」


 灯火はビルの上で、呆然として呟いていた。

 視界に、今までにない反応がある。


「どうした? 灯火」


「なんか、変な反応がある。他の人は赤く見えるのに、その人だけ青く見える」


「ふむ……灯火、その人物は誰かと連れ立って歩いているかい?」


「男の人と歩いてるね」


「じゃあ、男を狙撃してくれ」


「わかった」


 矢を弓につがえ、弦を引く。

 そして、放った。


 その次の瞬間、物凄い悪寒に襲われた。

 青い人を中心にして、禍々しいフィールドが展開された。

 そして、二人は真っ直ぐにこちらに走ってくる。

 矢を受けた様子はない。


「なんで? 射たのに。当たってない? 消えた?」


「スキルキャンセラーか。まあまあの当たりだな」


「スキル……キャンセラー?」


「灯火。君の能力は魔法少女というスキルだ。スキルキャンセラーというのはスキルを全て無効化する」


 なんだそれは。反則じゃないか。


「に、逃げよう。車に乗って凄い速度で近づいてくる」


「大丈夫だ。マイ・フェア・レディ」


 そう言ったフェアは、既に動物の形をしていなかった。

 すらりと長い手足。鍛えられた背筋。そこにいたのは、一人の男だった。

 男は腰に帯びた鞘から日本刀を引き抜く。


「俺の後片付けだ。とどめを刺す」


 灯火は心音が跳ね上がっているのを感じた。

 変なことに巻き込まれている。あらためて、そんなことを実感した。




第八話 完




次回『それは彗星のように』

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