神速の剣技
「わかっていますか? 私は幼少期から特殊な訓練を受けて育ちました。そして、ちょっとやそっとの剣士では太刀打ちできないほどに仕上がりました」
「旅をしてきた」
アラタは、道場の天井を仰いで言う。
「どの旅も、どの戦いも、俺を成長させてくれた。無駄な戦いなど一つもなかった。全てが俺の糧となった」
そう言って、アラタは鞘から刀を抜く。
「今なら、あんたとも対等に戦える気がするよ」
「錯覚ですね」
巴はダガーナイフを二本、マントから取り出す。
そして、両者はぶつかりあった。
二本のダガーナイフがクロスして日本刀を受け止める。
巴の身体能力は、現在のアラタと比べて高いとは言えない。
しかし、何故だろう。
剣を重ねるごとに、アラタが遅れていく。
巴は後方へ跳躍した。
「その身体能力。その技量。一般人の身でよく……」
巴は驚愕したように言う。
「ああ。それが今までの俺だ。そして、これがこれからの俺だ」
そう言って、アラタは前に出た。
巴は双剣を構える。
それを、アラタは構えきる前に弾いた。
巴の目が驚愕に見開かれる。
「動きはよんだ! 適応は可能だ!」
隙だらけになった脳天に、剣の柄を叩きつけようとする。
その瞬間、巴の腕が消えた。
いや、消えて見えるような速度で動いたのだ。
巴の双剣の一本が柄を受け止めている。
そして、巴は蹴りを放った。
アラタは胃液を吐きながら後方へ飛んでいく。
そして、腹部を押さえてゆっくりと体を起こした。
「伊達に銃弾斬ってないですよ」
巴は、淡々とした口調でそう言う。
「手加減してたのか……」
「様子見、です。あなたは私の本気を引き出した。十分な健闘です」
アラタは体を起こして、あぐらをかいた。
「頂点に立ったつもりでいたが」
アラタは苦笑する。
「上には上がいるな」
「残念ですか?」
「いや。面白い。今回の事件、あんたと行動を共にさせてもらう。色々勉強になりそうだ」
「……変な子ですねえ」
巴は呆れたような表情になる。
「けど単独行動より二人での行動は理に適っています。いいでしょう。あなたをパートナーとして認めましょう」
巴が手を差し出す。
アラタはそれを握る。
剣士二人組としては突出したコンビが誕生した瞬間だった。
第七話 完
次回『師匠』




