魔法少女と少年は出会う
眠いな。そう思いながら私は箒に乗って空を飛んでいた。
「神経を張り詰めさせて。そんなんじゃ、見つかるものも見つからないよ」
炎を纏った人形のような動物、フェアが声をかけてくる。
「それもそうだね。世直しのためだもんね……」
自分に魔法少女の適性があると知らされた時は衝撃的だった。
悩みもしたが、自分の力で世界が平和になるなら安いものだと、そう思った。
そして、灯火は魔法少女となった。
「睡眠耐性もついてるはずなんだけどな」
フェアが不思議そうに言う。
「朝に起きて夜に寝る。人間の自然な生活だよ」
「思い込みがスキルを超える、か。稀有な例だね」
フェアは呆れたような口調だ。
その時、私は巨大な存在感を察知して震えた。
「なに……これ……」
「ふむ。この感覚。ソウルイーターだね」
「ソウルイーター?」
「人の魂を喰らう悪魔さ。喰らえば喰らうほどその存在感は強くなる」
「なら……私の矢を放つしかない!」
私はそう言って、矢を弓につがえて弦を引いた。
そして、感覚だけで狙いを定め、五本放った。
次の瞬間だった。
巨大な存在感がどんどん近づいてきている。尋常な速度ではない。
屋根の上を走って信号などに邪魔されないようにしているようだ。
「ど、どうしよう」
「射て! そいつが僕達の最終目標だよ!」
私は再び矢をつがえ、三本放つ。
その瞬間、氷の剣に肩を貫かれ、私は箒から落ちていた。
頭から落下して、地面に落ちる。
体が痺れて動かない。しかし、感覚はあるし、辛うじて動くから、最悪の結果は逃れたようだ。
「なんだお前、どっから落ちてきた」
少年が、呆れたように言う。
「う……うう……」
声が声にならない。
「少年!」
フェアが少年に声をかける。
「うわっ、なんだ? 新種のモンスター?」
「この子を匿ってくれ。この子は殺人鬼に追跡されている!」
「……後から部屋に無理やり引っ張り込まれたとか言わないだろうな?」
「問答している時間はないんだ。見つかったら、殺される。君だってわからんよ」
少年は数秒考え込んだが、私を抱えて家の中に入っていった。
巨大な存在感も今は察知できない。私の中の魔力が完全に動きを停止しているそうだ。
それが、幸いに働いたらしい。
相手はこちらを見失ったようだ。
今にも扉をこじ開けて相手が入ってくる瞬間を想像して震えが走る。
しかし、その瞬間はついぞやってこなかった。
「ふう……」
私は息を一つ吐いた。
五体も、自在に動く。
しかし、危ない目にあったとしか言いようがない。
肩にはまだ氷の剣が突き刺さっていた。
「剣を抜いて」
しばらく避難していたらしいフェアが、私の傍に飛んできて言う。
剣を抜いた瞬間、血がどんどん傷口から流れていった。
フェアの手から治癒の光が放たれる。
私の傷は、十分もしないうちに完治した。
「痕は残るか……」
傷口を確認しながらぼやく。
「僕は医療術は門外漢だからね」
フェアはとぼけた調子で言う。
人を巻き込んでおいて呑気な動物だ。
「お前、言ノ葉灯火だよな?」
その一言で、硬直した。
はっきりとした意識で、あらためて少年を見る。
同じ中学校に通う、佐々木静流だった。
「……やあ」
「飯は出ねえぞ」
静流は淡々とした口調でそう言うと、台所に向かって歩いていった。
さっさと帰れ、ということらしい。
第三話 完
次回『魔法少女の口止め』




