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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十二章 魔法少女は夢を見ない
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魔法少女は夢を見ない

 全身で呼吸をしているようだと思う。それぐらい息が乱れている。フリルの付いたミニスカートは、着地点を見失って彷徨う鳥のように、前後に移動している。。

 後方から銃声が何度か鳴り、それに怯えるような悲鳴が上がる。

 牽制に、弓に矢をつがえ、弦を引いて三本放った。

 一時的に銃声が止む。


 私は天に手を伸ばし、箒を呼び出した。

 それにまたがり、全速力で空を飛ぶ。

 前髪が風で後ろに流れ、それでも凶器と狂気を持った人々から徐々に遠ざかっていく。


 雲の上に出て、息をつく。

 危ないところだった。

 箒に乗りながら矢を放てたらいいのにな。

 そう思い、箒の上で弓に矢をつがえ、弦を引く。

 その瞬間、私は箒の上で反転して頭が地面に向いていた。

 箒にしがみつき、矢を離し、位置を修正する。


「世の中、中々上手くいかないもんだなー」


「それでも君は立派な仕事をしているよ」


 炎を纏った人形のような動物が声をかけてくる。


「そうかな?」


「ああ。今日も、世の中から悪を祓った」


「へへ。夜更かししたかいがあるってもんだよ」


 私は位置を変え、狙撃を再開する。

 この町には魔が多い。それ探知し、浄化の矢を放つのが私の仕事。

 私は言ノ葉灯火。魔法少女だ。


 そのうち、朝がやってきた。

 今日も夢見ることなく一日が始まろうとしていた。




+++




「寝不足みたいですね」


「わかる?」


 翠の言葉に、目の下に隈をつくった楓は弱々しい声で答えた。


「最近平和だと思ってたらまた緊急事態よ。どうなってるのかしら。いつからこの舞台はゴッサムシティになったのかしら」


「ここだけの話ゴッサムシティの方が治安がいいまであります」


「呪われてんのかなあ……もしくは、こんなスキルがあるとか」


「どんなです?」


「主人公」


 楓は人差し指一本で天を指す。


「その人物を主人公とするために舞台が自然と整えられる。そう考えればこの異常事態の連続にも納得がいくわ」


「それ、私が犯人じゃないですか。持ってませんよ、そんなスキル」


「そうかぁー。五パーセントぐらいはそれに賭けたんだけどな」


「疑われて心外です」


「よう、翠」


 そう言ってやってきたのは、湯上がりの相馬だ。


「相馬さん」


「今回は大輝だけで十分だ。お前達二人は頭数個分飛び抜けてる」


「呪われた力でも、ですか」


 相馬の認識はそうだったはずだ。


「俺達は使えるものは使う主義だ。翠に休んでもらう今回は例外だな」


 そう飄々と言うと、相馬は楓の座っている椅子の背もたれに両手を置いた。


「今度はお前風呂入ってこいよ。さっぱりするだろ」


「そうだね。寝不足も少しは解消されるでしょう」


「はー、早く開放されて三人で飯を食いたいもんだ」


「まったくね」


 すっかり夫婦の会話だ。

 翠は感心してしまう。


「あ、悪いけど有栖と俺の朝食の皿が流しに放置されてるから」


 楓は立ち上がると、無言で相馬の足を踏んだ。


「でだ。話は聞いたか? ソウルキャッチャー」


「いえ、まだ」


「厄介な話だよ。これは巴にも関係する話だ」


 巴。ここ最近聞かない名前だ。


「随分久々に聞きました。その名前」


「奴が出た」


 翠は、戸惑うような表情になるしかなかった。


「巴の家族を皆殺しにした男だよ」


 翠の表情が引き締まった。



第一話 完


次回『剣術少年は穏やかに過ごしたい』

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