犯人捜し
アラタは夜道を歩いていた。
遭遇できれば上等。けど、そう上手くはいかないだろう。
初詣の人で溢れる神社で光の剣を呼び出した男。
それを、アラタは探していた
男の顔は、サイコメトリー能力で再現され、既に警察関係者の多くの人に知られていた。
背後から気配がして、アラタは呟く。
「フォルムチェンジ」
そして、長剣を構えて振り返った。
「私ですよ」
そう言って出てきたのは、ポニーテール姿の吹雪だ。
腰には西洋の剣を帯びている。
「家からつけてきてたのか……」
「随分注意したつもりだったんですけどね。まんまとバレました」
「で、どうした?」
「お供しますよ。一人より二人の方が安全だ」
「戦闘役は俺に任せろよ?」
「……じゃんけんでもします?」
「二対一でいいか」
どうでも良さげに言うと、アラタは再び歩きはじめた。その横に、吹雪が並ぶ。
「二人で散歩してるって知られたら、ますます響が拗ねるな」
「ああー、盛大に振られてましたもんね」
吹雪は滑稽そうに笑う。
「その前日まではいちゃいちゃしてたのに。中々難しい」
「交際相手と結婚相手はイコールとは限らないんですよ。聡明な響ちゃんはそれをわかっているのでしょう」
「……難しいなあ」
「手近なところで済ませましょうよ」
「手近なところ?」
戸惑いつつアラタは吹雪を見る。すると、彼女は穏やかな笑顔で自分を指差していた。
「馬鹿言ってんじゃないよ」
「変身、解いてくれます。目立つ」
吹雪が淡々とした口調で言うので、アラタは変身を解いた。
そのとたん、吹雪はアラタの手を引いて、木陰に連れ込んで押し倒した。
「なんの真似だよ」
アラタは淡々とした口調で言う。
「なにをしても、いいんですよ」
吹雪が、熱のこもった声で言う。
「胸を触っても、太腿を撫でても。私は抵抗しないし、あなたに合わせます」
「エロゲみたいなこと言ってら」
「経験者?」
「漠然としたイメージだよ」
「私は、あなたを愛します」
胸に、手が伸びかける。アラタは、それをすんでのところで思いとどまった。
「それでも、俺は……」
その時、吹雪が真顔になった。
「危ない!」
そう言って、突き飛ばされる。
(なんだ?)
そう思って前を見ると、吹雪の右手が光の剣で切断され、宙を舞っていた。
「フォルムチェンジ!」
アラタは変身して、光の剣の根本へと走る。
しかしおかしい。相手の気配がつかめない。
光の剣が真っ直ぐに、アラタ向かって放たれた。
アラタは辛うじて、それを避けた。
そして、そのデータを元に、敵を探して走った。
駄目だ。夜の闇が、相手を上手く隠している。
(攻撃に移る瞬間は殺意が漏れる。しかし、早く処理しなければ吹雪の治療に移れない……)
アラタは、スマートフォンを取り出した。
「もしもし」
「はい、なに?」
「翠さん。吹雪の腕が断たれた。治療してやってほしい」
「場所は?」
地元民なだけあって大体の説明でわかったらしい。翠は矢のような速さでやってくるだろう。
アラタは追撃を待つ。
しかし、飽いたとでも言うように、敵の攻撃はそれきり起こらなかった。
第六話 完
次回『傷跡』




