特殊部隊
壮年の男が、テーブルに座っている。
楓はその前で、背をそらさんばかりにして立っていた。
「で、だ。思うのだが。君とその友人達の能力はもはや人の域を超えているように思う」
「光栄です」
「で、だ。こうも思うのだが。日本全域の事件解決に当たる特殊部隊の編成を考えているところなんだよ」
「つまり、私の友人達をそのメンバーに……?」
「昇給と昇進もつけるつもりだが」
「もったいないお話です」
楓は苦笑する。
「……辞退する気かね」
「多分、私の友人達が守りたいのは、なにげない日常なんです。今回みたいな例外もありますが、帰った時に微笑んでくれる人のために戦うんです。正義のヒーローを目指しているわけではない」
一人例外がいるけれど。そう、心の中で付け加える。
「彼らは、超越者である前に一般人なんです」
「そうか。わかった。遠路はるばる悪かったね。また、話をしよう」
「はっ」
そう言って、楓は部屋を後にした。
「フラれましたね」
女性が滑稽そうに言う。
壮年の男性は腕を組んで唸る。
「いいアイディアだと思ったんだがなあ。特殊部隊」
「私もいいアイディアだと思いますよ。けど、一般人の協力を必要とする時点で破綻していると思います」
「そうなんだよなあ。一般人か。アラタくんあたりは警察に引っ張り込めそうだが」
「気の長いお話ですね」
「大学行くかなあアラタくん」
「どうでしょうねえ」
戦いは終わった。
けど、それは一つの戦いでしかない。
日常が続く限り、新たな事件は起こってしまうのだ。
人と人は、ぶつからずにはいられないのだ。
+++
墓の前に、相馬は花束を持って立っていた。
それを、墓に添える。
そして、しゃがみこんで、手を合わせた。
十分ほど、時間が経った。
相馬は、話す言葉に迷うように、黙り込んでいる。
(ずいぶん、君のことを忘れてるって最近自覚した)
相馬は心の中で呟くように喋り始めた。
(匂いも、温もりも。日常の会話さえも)
返事はない。当然だ。目の前にあるのは、ただの墓だ。
(けど、君という存在と過ごした時に感じた心の温もりは、多分一生忘れない。それも抱えて、俺は人を愛そうと思う)
言って、相馬は苦笑する。
「相手が承知してくれるかはわからないが」
「大丈夫だよ」
声がして、相馬は周囲を見回す。
しかし、誰の気配もしない。
幻聴だろうか。空を飛んで確認するが、やはり人はいない。
「お前か……?」
墓の前に立って、相馬は掠れた声で言う。
そして、苦笑した。
「また来るよ。次は、有栖を連れてくる」
そう言って、相馬はその場を後にした。
風に揺れる花を残して。
第二十章 完
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