表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十章 物部恵梨香奪還作戦(第四部最終章)
256/391

エリー、恵梨香

 エリーは脱出する人々の誘導をしていた。

 基地の中には子供もいる。

 誘導は慎重を要した。


 そして、エリーは会ってしまった。

 エリーにとっての死神と。

 斎藤翠。

 難敵だった。


 さらに、男と少女が付いている。


 エリーは錫杖で地面を突く。

 氷の壁ができて、両者の間を塞いだ。

 しかし、翠の鉄化した拳はそれを軽々と破壊する。


「逃さないよ。説得するって決めたんだ」


「下らないよ。私はこの能力によって人生を狂わされた。この力は公表されるべきだ。あなた達みたいに隠蔽することしか考えてない人には負けない」


「公表されてどうなるの。超越者は今まで以上に道具として扱われ、死んでいくんだわ」


「これを祝福と呼ぶ人もいる。けど、私にとっては呪いだった」


「……なにがあったの?」


 翠は、伺うように言う。

 エリーは迷った。迷いに迷って、呟くように言った。


「髪と目が金色に染まるようになった」


 翠は戸惑うような表情になる。


「どれだけ黒く染めても、次の日には金色になっている。何度も、何度も、染めた。けど、金色に戻っている。母はノイローゼになり、学校からは匙を投げられ、同級生からは嘲笑されたわ。孤立。それが、私の超越者としての目覚め」


「あなた、まさか……石神の……」


「石神?」


「超越者を人工的に作り出していた人間がいたのよ。その男の名前が、石神」


「そっか……これは誰かのせいなのか」


「ええ。あなたのせいじゃない」


「なら。遠慮なく力を使える」


 そう言った瞬間、周囲は霧に包まれた。

 シンシアが前に出て、風を作り出す。しかし無駄だ。霧は周囲を覆って、ついには私達を覆った。


 恭司が前に出て、撫壁を床に叩き付けた。


「気をつけろよ。どこからくるかわかんねえぞ」


「寒い……」


 シンシアが体を抱いて言う。吐く息は既に白い。


「これが私の結界。入った者は全て氷によって粉々に砕け散る」


「シンシア。少しでも押し戻すよ!」


「うん……」


 私は炎を放ち、シンシアは風を放った。

 しかし、それらは全て無駄で、溶けた分の氷はすぐに補充される。


「最強の攻撃だとは思わない? 最強の魔力で作る、最強の結界。接近するのが遅れればこれで十分しのげる」


「恭司。前へ進める?」


「……相手の位置がわからない。無駄に体力を使いそうだ」


 沈黙が漂った。

 寒さは刺すような痛みになり、私達を襲った。


「恵梨香!」


 私は、叫ぶ。


「本当にこんなことをしたかったの?」


「ええ、そうよ!」


 恵梨香は、叫ぶ。


「私は世界から弾き出された! だから、世界を書き換える! 犠牲をいくらも積み上げて、目標へと繋げてみせる!」


「けど、あなたはエリーじゃない!」


 私は叫ぶ。


「恵梨香だ! 私の友達だ!」


「……ずっと、忘れないよ。翠」


 思考を張り巡らせる。

 吸収した能力はいくつもある。しかし、それをどう組み合わせてもこの結界を破壊できそうにはない。

 コピーした能力を五割増しで使えるというアーティファクトの力があるが、この場では使い道はなさそうだ。

 そこまで考えて、ふと気づく。


(コピーした能力を、五割増しで使う……?)


 ソウルキャッチャーにとって、スキルは奪うか奪われるかのものだ。コピーではない。

 なら、コピーとはなんだ。


 もしや、と思い、手に氷の霧を作る。

 それは一瞬で広がり、恵梨香の氷の結界を押し戻した。


「なに?」


 恵梨香が、戸惑うように言う。


「威力増強のアーティファクトが多いみたいだね、恵梨香」


 私は、淡々とした口調で言う。


「私のアーティファクトは、そのスキルをコピーして五割増で放つ力だ!」


 そう。威力増加の効果だけのアーティファクトだと思っていたが、それは違った。

 コピー能力がこのアーティファクトの持つ一番の特性。


「くっ!」


 氷の霧がぶつかりあう。そして、徐々に、徐々に一方へと押されていく。

 決着は、あっけなかった。

 恵梨香は、膝をついて、息を荒げていた。

 あれだけ強大なスキルだ。使うにも疲労が伴うのだろう。


「決着だ、恵梨香。あんたはエリーじゃない。恵梨香だ! 私の友達だ!」


「……はは、まだ友達って言ってくれるんだ」


 金色の髪をして、金色の瞳をした友人は、苦笑交じりに言った。


「当然でしょ。私は、あなたを取り返しに来たんだから」


「降参だ。馬鹿には勝てん」


 そう言って、恵梨香は倒れた。



第七話 完

次回『灰色の決着』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ