エリー、恵梨香
エリーは脱出する人々の誘導をしていた。
基地の中には子供もいる。
誘導は慎重を要した。
そして、エリーは会ってしまった。
エリーにとっての死神と。
斎藤翠。
難敵だった。
さらに、男と少女が付いている。
エリーは錫杖で地面を突く。
氷の壁ができて、両者の間を塞いだ。
しかし、翠の鉄化した拳はそれを軽々と破壊する。
「逃さないよ。説得するって決めたんだ」
「下らないよ。私はこの能力によって人生を狂わされた。この力は公表されるべきだ。あなた達みたいに隠蔽することしか考えてない人には負けない」
「公表されてどうなるの。超越者は今まで以上に道具として扱われ、死んでいくんだわ」
「これを祝福と呼ぶ人もいる。けど、私にとっては呪いだった」
「……なにがあったの?」
翠は、伺うように言う。
エリーは迷った。迷いに迷って、呟くように言った。
「髪と目が金色に染まるようになった」
翠は戸惑うような表情になる。
「どれだけ黒く染めても、次の日には金色になっている。何度も、何度も、染めた。けど、金色に戻っている。母はノイローゼになり、学校からは匙を投げられ、同級生からは嘲笑されたわ。孤立。それが、私の超越者としての目覚め」
「あなた、まさか……石神の……」
「石神?」
「超越者を人工的に作り出していた人間がいたのよ。その男の名前が、石神」
「そっか……これは誰かのせいなのか」
「ええ。あなたのせいじゃない」
「なら。遠慮なく力を使える」
そう言った瞬間、周囲は霧に包まれた。
シンシアが前に出て、風を作り出す。しかし無駄だ。霧は周囲を覆って、ついには私達を覆った。
恭司が前に出て、撫壁を床に叩き付けた。
「気をつけろよ。どこからくるかわかんねえぞ」
「寒い……」
シンシアが体を抱いて言う。吐く息は既に白い。
「これが私の結界。入った者は全て氷によって粉々に砕け散る」
「シンシア。少しでも押し戻すよ!」
「うん……」
私は炎を放ち、シンシアは風を放った。
しかし、それらは全て無駄で、溶けた分の氷はすぐに補充される。
「最強の攻撃だとは思わない? 最強の魔力で作る、最強の結界。接近するのが遅れればこれで十分しのげる」
「恭司。前へ進める?」
「……相手の位置がわからない。無駄に体力を使いそうだ」
沈黙が漂った。
寒さは刺すような痛みになり、私達を襲った。
「恵梨香!」
私は、叫ぶ。
「本当にこんなことをしたかったの?」
「ええ、そうよ!」
恵梨香は、叫ぶ。
「私は世界から弾き出された! だから、世界を書き換える! 犠牲をいくらも積み上げて、目標へと繋げてみせる!」
「けど、あなたはエリーじゃない!」
私は叫ぶ。
「恵梨香だ! 私の友達だ!」
「……ずっと、忘れないよ。翠」
思考を張り巡らせる。
吸収した能力はいくつもある。しかし、それをどう組み合わせてもこの結界を破壊できそうにはない。
コピーした能力を五割増しで使えるというアーティファクトの力があるが、この場では使い道はなさそうだ。
そこまで考えて、ふと気づく。
(コピーした能力を、五割増しで使う……?)
ソウルキャッチャーにとって、スキルは奪うか奪われるかのものだ。コピーではない。
なら、コピーとはなんだ。
もしや、と思い、手に氷の霧を作る。
それは一瞬で広がり、恵梨香の氷の結界を押し戻した。
「なに?」
恵梨香が、戸惑うように言う。
「威力増強のアーティファクトが多いみたいだね、恵梨香」
私は、淡々とした口調で言う。
「私のアーティファクトは、そのスキルをコピーして五割増で放つ力だ!」
そう。威力増加の効果だけのアーティファクトだと思っていたが、それは違った。
コピー能力がこのアーティファクトの持つ一番の特性。
「くっ!」
氷の霧がぶつかりあう。そして、徐々に、徐々に一方へと押されていく。
決着は、あっけなかった。
恵梨香は、膝をついて、息を荒げていた。
あれだけ強大なスキルだ。使うにも疲労が伴うのだろう。
「決着だ、恵梨香。あんたはエリーじゃない。恵梨香だ! 私の友達だ!」
「……はは、まだ友達って言ってくれるんだ」
金色の髪をして、金色の瞳をした友人は、苦笑交じりに言った。
「当然でしょ。私は、あなたを取り返しに来たんだから」
「降参だ。馬鹿には勝てん」
そう言って、恵梨香は倒れた。
第七話 完
次回『灰色の決着』




