役割分担
「強い奴も手柄首も奥の層にいる。俺は奥の層へ行く」
と、アラタ。
「面白いですね。ご一緒しますよ」
と、吹雪。
「剣士二人で組んで遠距離攻撃の敵と当たったらどうすんだ」
「躱して斬るだけです」
吹雪はリーダー格の男に、のんびりとした口調で過激なことを言う。
「私がついていくわ。奥の層は確かに強敵も手柄首も多い」
楓が言う。
「私は、上層へ行きます」
私は、恭司を抱えて下降しながら言う。
「あの子なら、絶対に仲間を助けようとするはず。上層へ行きます」
「私情だね」
楓が、面白がるように言う。そして、言葉を続けた。
「だが面白い。行きな」
「はい!」
「じゃあ俺も上層だな」
恭司が言う。
「お供しますよ」
そう言うのはシンシアだ。
そうやって、各々の持ち場は決まっていったのだった。
+++
「なんか最近影薄いんだよなあ」
大輝はぼやきながら、通路を進む。
「ねえ、存在感が増す道具出してよぉ」
声真似をしながら、大輝は手を振る。
その度、血飛沫が舞った。
大輝は戦っているのだ。
真剣にならずとも敵を下せる。
大輝の実力は既に一人の戦士の範疇を大きく逸脱しつつあった。
「おお、なんてことだ。我が同胞が……!」
男が通路に出てきた。
大輝は風の刃を放つ。
それを、風の壁で相手は無効化して、同時に火球を放った。
大輝はそれを、炎の壁で無効化する。
「ふふ、ふふふ……なるほど。ソウルキャッチャーにしてその無慈悲さ。大輝とは君のことだな」
「おっ。お前、俺のこと知ってんのか」
「裏社会じゃ有名さ」
「いいねいいね。ここまで暴れて無名だってんなら悲しくってないさ」
賢者の石攻防戦で会ったことは忘れられているようだが。
これは本格的に影が薄くなっているのかもしれない。
「だがここが君の終着点だよ」
男は手を大きく広げて大輝に向けた。
四本の指から四色の光が掌に向かって流れ込んでいく。
そして、それは光となって輝き始めた。
「エレメンタルカラーズ、か」
大輝は呟くように言う。
「ああ、そうだ。これは相殺できまい!」
「そうかな。結局は、四つの属性を近い出力で放てばいい話なのだろう?」
「簡単に言うが、それが難しい」
大輝は手を広げて、相手に向けた。
そして、感じる。
四本の指から同量のエネルギーが掌に向かって集まっていることに。
エネルギーはせめぎあい、時に混ざりあい、時に相殺しあいつつも、最後には調和を得て光となった。
「ば、馬鹿な……」
男は狼狽していた。それはそうだろう。この技は一朝一夕でできるスキルではない。
しかし、ソウルキャッチャーの特性がそれを可能にした。
「俺の中には沢山の人間がいる。全盛期より数は減ったが、残った連中は俺に力を貸してくれると契約した。その中から適合率が近い四人に協力してもらえば、まあこんなものだ」
男は息を呑む。
「さて」
大輝は指を無作為に動かしながら唇の箸を持ち上げる。
「お前の正義が上か、俺の悪意が上か。ためそうじゃないか」
「うおおおおおおおおおお」
二つの光が放たれる。
男のエレメンタルカラーズは大輝のそれを徐々に押しつつあった。
「ふはははは、所詮は寄せ集めだったな」
「そうだな」
男はその声を、至近距離で聞いていただろう。
人間を超えた身体能力で移動した大輝が、男の横に立っていた。
「ま、待て!」
そう言うが、遅かった。
大輝の手は、男のスキルを奪い取っていた。
勝敗は決した。
「……最近影薄いんだよなあ。こう、ベジータが仲間になった後の天津飯みたいな」
大輝はぼやき、男を気絶させると、再び敵の大量殲滅に移行した。
第五話 完
次回『剣に生き、剣に死ぬ』




