恵梨香奪還作戦
「今回の作戦は茨城県警の特務隊との共同作業になります」
楓が地元の面子に説明する。
六人の戦士が、楓の背後にいた。
対する楓組は、私、楓、相馬、恭司、シンシア、アラタ、大輝の七人。
アラタの視線の先には、一人の女性がいた。
若い女性だ。二十代前半だろうか。腰に西洋の剣を帯びている。
その手が剣に向かい、楓目掛けて振り抜かれようとした。
私は慌てて楓を抱え、空を飛ぶ。
アラタは抜刀しかけて、動きを止めた。
女性は、そもそも剣を掴んでなどいなかった。ただ、持ち手に手を添えただけだ。
「やりやがったな、吹雪」
特務隊の一人が苦い顔で言う。
「勘がいいのがどれだけいるかなって思ったんですよ」
そう言って、女性は鈴を転がしたように笑う。
「尋常じゃない殺気がしましたけど」
楓がしかめっ面で言う。
「すいません、こいつの癖なんです。相手を試すというかなんというか……」
特務隊のリーダー格らしき男が申し訳なさげに言う。
「今の殺気、尋常なものじゃない」
そう言って、アラタは鞘に収めた日本刀の持ち手に手を乗せる。
「一手、ご教授願おうか」
「面白い子ですね。殺気を感じてさらに戦いたいなんて子珍しいですよ」
「やめやめやめ!」
二人の間に、私の腕から飛び降りた楓が入る。
「決戦前に無駄な消耗はやめましょう。行きましょう。敵のアジトへ」
十三人が頷いた。
そして、私は思う。
彼らはエリーを奪還した。
ならば私は、恵梨香を奪還するまでだ。
+++
まだ幼い剛が穴を掘っている。
恵梨香の泣き声が周囲に響き渡っていた。
私は布に包まれた猫の遺体を、剛の作った穴に入れた。
剛は土をかけていく。
三人で可愛がっていた野良猫も、越冬はできなかったらしい。
ある日、冷たくなっているのが発見された。
それを、埋めている最中だった。
恵梨香は泣き止まない。
剛はその肩を、抱いた。
「俺と翠がいるだろ?」
「けどあの子は帰ってこないんだもん」
恵梨香は泣き止まない。
幼い日の思い出の一ページ。
そして、エリーは目を覚ました。
剛は死に、翠は敵となった。
一人だ。
できるならば、あの猫のように自然と共に死んで、自然と共に埋められたい。
そんな願望がある。
ここは、エリーが所属している超越者集団パンゲアの地下施設だ。
寝ぼけ眼を擦りながら、着替えてロビーに出ると、ざわついているのがわかった。
顔なじみが、少し困ったような表情で近寄ってきた。
「お客さんだよ。招かれてないね」
ロビーに設置されたモニターに視線を移す。
そこには、刑事らしき面々が十数人集まっていた。
「面白い!」
アラタと武器無しで戦った真一が、大声で言う。
「これでこの基地が不動のものだと天下に示そうぞ!」
(そう上手くいくといいけどね……)
エリーは表情を曇らせる。
考えもなしに、来るわけがないのだ。
そして、監視カメラに翠が映っているのを見て、エリーの表情はますます曇る。
(翠。私達はどうあっても敵になる運命らしいね)
そう思い、エリーは手にアーティファクトの錫杖を呼び出し、地面を突いた。
エリーの上半身に様々なアーティファクトの装飾品が飾られた。
その一つ一つが、エリーに力を与えてくれるのだ。
決戦は、近づきつつあった。
第三話 完
次回『突入』




