表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十章 物部恵梨香奪還作戦(第四部最終章)
251/391

愛の使徒

 楓は、夢の中にいた。

 舞台は、相馬と行ったあのホテル。

 一部始終を思い返して、残ったのは後悔だった。


「何故、そう思うの?」


 声がした。


「相馬に節子と同じ愛され方をしたのかなって。節子の代わりでしかないのかなって。手を握りあっても、寂しいだけだった」


「あなたは愛の入り口に立ったばかり。戸惑うのも仕方ないわ」


「この劣等感にも似た気持ちは、いつか消えるのかな」


「消えるわよ。あなたの錯覚だもの」


「錯覚、か」


 楓は苦笑するしかない。


「自己紹介が遅れたわね。私は愛の使徒、シーリン」


 楓は意識がはっきりするのを感じた。

 けれどもまだ、舞台は夢の中だ。


「愛に悩み、愛の入り口に立ったあなたに、私は本当の力を分け与えましょう」


 シーリンの声は遠ざかっていった。

 目が覚めて、アーティファクトのイヤリングを付ける。

 そして、手に氷を作り出した。

 今までと感触が違うといったことはない。


 ただ、手応えがあった。

 新たに楓が得た能力。

 それは、無効化。

 スキルキャンセラーの下位互換だ。



+++



「翠ー、スマホ鳴ってる」


「ロックは嫌い?」


 スマートフォンの着信音はロックなのだ。


「じゃなくて、出ようよ」


「恭司のオタク趣味には目を瞑ってきたけど今回は譲れない」


「じゃあ着信拒否しちゃえば?」


「別れ話に発展しそうだからそれは無理」


「そ」


 セレナは呆れたように言うと、自分の部屋に帰っていった。

 料理を作る。


 現在、葵を交えた茨城県警が、エリー及び今回の敵の本拠地を捜索中だ。

 時間は刻々と近づきつつある。


 喧嘩をしている暇はない。わかっているのだが、納得できないことだってある。

 自分以外の女の話に熱中している彼氏。

 あまり見たいものではなかった。


 こうして、時間は無為に過ぎていく。


「セレナ、明日ショッピングモール行こうか」


「なんでー?」


「そろそろ冬服でしょ」


「ああ、そうだね。お世話になります」


「やめなよ。たまには母親らしいことをさせろ」


「うん。ありがとう、お母さん」


 そう言って微笑んだセレナは、私の知るどんな子供よりも可愛かった。



+++



 道場で、アラタは無心に真剣を振っていた。

 あらゆる角度から剣を振る。

 実戦ではどんな一撃が決定打になるかわからないから、自然と修練もそれに対応したものになる。


「緊張しているの?」


 背後から声をかけられ、アラタは肩を震わせた。

 振り返ると、響が立っていた。


「決着をつけなきゃならない相手ができた。武器のない状態で俺の攻撃をしのぎきりやがった」


「危ないからやめようって考えは?」


「ないね」


「じゃあ、私は頑張れとしか言えないな」


 響は、寂しげに言う。


「私も力がほしい。アラタ達についていけるような力が」


 アラタは真剣を置いて、響を抱きしめた。


「戦場で疲れている時、イメージするんだ」


「ふふ、なにを?」


 響は笑っているが、声のトーンは低い。


「全部終わって。疲れたなって家に帰る。家の前には響が待っててくれる。俺は抱えるように、響を抱きしめるんだ」


 響は黙り込んだ。


「君がいるから、僕は戦える」


 子供染みた声と口調になった、と思った。

 素直な感情が表に出ているのだろう。


「巻き込んでおいてなんだけど、私は、戦わないでほしい」


 響は、アラタの胸に額を付けて言う。


「けど、それをしなくちゃいけない誰かがいるのも知っている」


「うん」


「大怪我せずに帰って。私の注文はそれだけだから」


「ああ、わかった。忘れたか? 君のくれた力は、様々な敵を下してきたんだ」


 二人は、強く互いの体を抱きしめあった。

 まだ若い二人。けど、愛の気持ちは大人にも負けなかった。



第二話 完



次回『恵梨香奪還作戦』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ