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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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進化

 私はもう一歩踏み出し、口を開く。

 恭司が慌てて私の前に立ち、盾を展開させた。

 ソウルイーターは既に巨大な腕を周囲に発生させている。


「あなたが原因で、私は随分酷い目にあった。銃で撃たれたこともあれば、氷の刃で斬りかかられたこともある」


「それは、スキルを集めてこなかったお前の怠惰が原因だ」


 ソウルイーターは、淡々とした口調で言う。

 激高しそうになったが、落ち着いて対応する。


「私は一般人でありたい。こんな力はいらない」


「なら、その力、俺によこせ。破壊に使ってみせる」


 私は目を閉じて考え込んだ。

 そして、しばしの後、目を開く。


「あなたの存在を野放しにしておけば、沢山の犠牲が出る。一般人な私だけど、それを防ぐ術が存在するというなら、それに賭けるわ」


「一般人って、なんだ?」


 思いもしない発言に、私は思わず口ごもる。


「少なくとも、お前は一般人を逸脱している。既にこっち側の人間だ。繰り返し言う。その力、俺によこせ」


「言ってやれ! 翠!」


 歩美が叫ぶ。

 私は、頷いた。


「あなたが、私に力を与えるのよ。ソウルイーター」


「なに……?」


「恭司!」


「ああ」


「楓さん!」


「ええ」


「歩美! やって!」


 歩美は頷いて、両手を前に差し出し、力を込めた。


「バースト!」


 私は叫ぶ。

 盾が吹き飛んだ。

 恭司の盾、撫壁は前からの攻撃に強いが、内側からの攻撃に弱い。

 それを利用して、歩美が撫壁をバラバラに破壊し、破片を放ったのだ。

 破片は前へと勢いよく飛んで行く。

 さらに、氷の刃が、後を追った。

 ソウルイーターの周囲の腕が破壊されていく。


「銃弾の補給は俺の銃にやれ。俺のが当たる」


 相馬が葵に指示して銃弾を放つ。


「行け! ソウルキャッチャー!」


 楓の叫びを背に、私は既に駆け出していた。

 恭司の横を通り過ぎ、光の手を無防備になったソウルイーターのハートに叩き込んだ。


 そして、勢いよく吸収する。

 悲鳴が聞こえてきた。囚われた魂の悲痛な叫び。それを、吸収すると同時に解放していく。

 スキルの回収も忘れない。相手のスキルを徐々に奪い取っていく。


 ソウルイーターは、私の腕を掴もうとした。

 それも、銃弾に阻まれる。

 しかし、その傷口は、治癒の力によって回復しつつあった。

 ソウルイーターの手が、私の腕を掴む。


 爆発が起こった。

 私の右腕は吹き飛び、手首が地面に落ちる。

 痛みのあまり、光の手は消えてしまった。


「ハズレスキルだと思っていたが、とってみるもんだな」


 そう言うと、今度はソウルイーターの光の手が私のハートを掴んだ。

 スキルが吸収され返している。

 そして、魂までも。

 これはいけない。そう思った時のことだった。


「ごめん、翠」


 歩美が、呟くように言った。


「私は、私にできることをする」


 その一言を最後に、私の中から歩美の気配が消えた。


「歩美……?」


 確信した。歩美は、私の代わりに相手に吸収されたのだと。

 ソウルイーターの腕がひしゃげた。

 光の腕も、その痛みのせいか消えてしまった。


「く、こんなじゃじゃ馬を隠し持ってやがったか」


 ソウルイーターは憎むように言う。

 そして、こちらに背を向けて逃亡を始めようとした。

 いけない、と思った。

 このままではいけない、と思った。

 争いの場でなにもできない一般人を越えなければならない。そう思った。

 右手を前に差し出す。腕は、ものすごい勢いで再生を完了しつつあった。


 ああ、本当はこんなに力に恵まれていたのだ。そう実感する。

 一般人でありたいという私の思いが、私の力を制限し続けていた。

 ならば、今から放つスナッチャーも、今までとは違うもの。

 私は、進化しつつあった。



+++



 皆城大輝は敗走していた。

 頭の中ではハスキーボイスで紡がれる罵詈雑言がうるさいほどに響いている。

 腕を抑え、駆ける。

 悪霊の力を抑えるだけで今は精一杯だ。吸収にはもう少しかかる。


「歩美を、返せ!」


 ソウルキャッチャーがそう叫んだ。

 その瞬間、大輝は立ち止まった。


 貫かれている。

 実体を持たない光の腕に。


 それは、今までのどんなスナッチャーよりも速かった。

 光の腕は、指に棘が生え、恐竜のものだと言われても信じてしまいそうな形状になっていた。


 吸われていく。

 今まで集めた魂が、吸われていく。

 スキルも、吸われていく。


 実感としてわかる。

 彼女の今の能力は、自分の上位互換だと。


(こんなところで、終わるのか……?)


 皆城大輝は、父を知らない。

 いや、育ての父ならいた。

 けど、DNA検査の結果、血が繋がらないことがわかった。

 そこからの父が行ったのは、大輝への虐待だ。

 優しかった父の豹変へのショック。母が不貞を行ったという事実へのショック。

 二つのショックは、大輝を狂わせ、暴走させた。


 だから、最初に大輝が殺したのは、父と母だった。


「この力を授けよう……」


 その声を思い出すと、今も胸が沸き立つ。

 そう、それは始まりの声。

 大輝がソウルイーターとなったきっかけの声。


 そこで、大輝は回想を止める。

 吸収が、止まっていた。

 人の魂は大半が周囲に放出されている。


 けれども、スキルは多少残っていた。

 大輝は振り返る。


 ソウルキャッチャーが、ショックを受けたような表情で、目から涙を零していた。

 心を読まれた。大輝は舌打ちする。


「同情かよ……」


「人の痛みを知るあなただからこそ、その力を破壊に使ってはいけなかった。思い出して。お父さんとお母さんが優しかった頃を」


 心の痛いところを突かれて、大輝は苦い顔になる。


「お前には関係のないことだ」


「そうかもしれない。けど、あなたの力はもっと世界の役に立つために使うものだと、そう思うんだ」


 大輝は黙り込んだ。

 背後から駆け寄ってくる音がする。水月だろう。


 大輝は能力の大半と魂の大半を失ったまま、逃走を開始した。


 ソウルイーターは破れた。

 進化したソウルキャッチャーは、悪の側とっては、新たに現れた脅威だった。




第二十四話 完

次回『後片付け』で一章は終了します。本日中に投稿予定です。

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