道を違えた時
「まあ色々あったみたいだけど、私戦闘らしい戦闘してないのよね。完全な陽動だわ」
外から帰ってきた楓は、私にぼやくようにそう言ってポッキーをかじると、自分の席で足を組んだ。
「大変でした」
「まああんたもアラタもよく頑張ったよ」
「結果はついてきませんでしたけどね」
「そういう日もある」
沈黙が漂った。
私は言いたいことがある。
しかし、それは言い辛いことだ。
「どうしたんだい? 話があるなら、聞くよ」
そう、楓は何時になく優しい声で言う。
「幼馴染だったんです」
「えーっと、エリーって子か」
「ええ。好きな子と二人きりにしてくれたり。色々仲良く遊びました」
「今じゃ立派な活動家だ」
「それが、わからないんです」
私は、必死に、紡ぎ出すように言う。
「どうして、こうも、人はすれ違うのか。上手く行かないのか」
「生きてるからさ」
楓は、淡々と言う。
「争うから仲直りができる。すれ違うから合流ができる。明日は雨でも明後日は晴れるかもしれない」
「それでも雨が振り続ければ?」
「耐えるだけさ。生きるってのはそういうことだ。生半可に屋根を立てたって台風には敵わない」
「敵わないな」
私は少し目眩がして、背をロッカーに預ける。
「大変だぞ」
楓は、遠くを見るようにして言う。
「殺さないように戦うのって」
「今までだって、ボスを除いて私はそうしています」
「けど、今回ほど傷つけ辛い敵と戦ったこともなかったじゃろ」
「それは……まあ」
「あんたまで取り込まれるのが最悪の結末だ。精々善処するんだね」
「気楽に言ってくれるなあ」
「本当に警戒するならあんたのスキルを奪ってばらして刑事に分け与えているよ」
思わず黙り込む。尤もだと思ったのだ。
「まあ胸を張りなソウルキャッチャー。あんたには何人もの味方がいる。私も、その一人だ」
「……やれるだけのことはやってみます。あと、エリーがああなった理由、調べてもらっても?」
「ああ、やってるよ」
「ありがとうございます」
そう言って、私はその場を離れた。
話して、少し体が楽になっていた。
第九話 完
次回第十九章完結『力を得るほどに』




