三十六計
刀が走り、幾重にも金属音が重なった。
男の指輪のアーティファクトとアラタの刀がぶつかりあっているのだ。
そのうち、アラタは少し体重を余分に乗せた一撃を放った。
相手はそれをよんでいる。ピースサインのように受け止める体勢を見せた。
しかし、アラタもまた、それに対応してみせた。
刃の角度を変えたのだ。これで、刀を挟めば相手の指は切れる。しかし、受け止めれば骨折するだろう。
金属音が一際高々と鳴った。
相手は、アーティファクトでアラタの刀を挟んでいた。
アラタは抜こうとするが、筋力で劣っているらしい。抜けない。
だが、抜けた瞬間が相手の最後の時だろう。
「悪い、慎吾。今の硬直状態の間にエリーを外へ連れ出してくれ」
「ボス……?」
「今のアラタは動けない。動けば自ら勝機を捨てるようなものだからな。だから、今のうちに行け。アラタが次の策を思いつく前に」
「俺も参戦します!」
「アラタの脇差しに片手間でやられるのがオチだよ」
悔しそうにしていたが、男はエリーの手を引くと、駆けていった。
「集まれ、賢者の石よ!」
エリーが唱えるように言う。
あの生物のような不気味な物質はその一言でエリーの元へ近づいていくのだろう。
「私も撤退を考えねばならんな」
「俺はかまわんぜ。援軍が来たら俺の勝ちだ」
「それはそうだ。この勝負は先に援軍が来たほうが勝ちだ」
「俺の援軍が来る可能性のほうが高いと言っている」
「賭けるか?」
アラタは、唇の片端を持ち上げた。
「チップは命だぜ」
「そうだな。素直に逃げようとしよう」
アラタは急に、刀から力を感じなくなった。
アーティファクトから変化した賢者の石で、舗装された指を刀が滑っていっている。
そして、完全に、刀は相手の体から離れた。
「まだまだ!」
「三十六計逃げるに如かず」
敵の男は、地面に煙玉を投げた。
アラタはその場から距離を置く。
そして、完全に相手を見失った。
刀を鞘に収める。
「……次は、斬る」
我ながら、負け惜しみのようで、アラタは少し悔しかった。
第八話 完
次回『道を違えた時』




