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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第十九話 エリー奪還作戦
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三十六計

 刀が走り、幾重にも金属音が重なった。

 男の指輪のアーティファクトとアラタの刀がぶつかりあっているのだ。


 そのうち、アラタは少し体重を余分に乗せた一撃を放った。


 相手はそれをよんでいる。ピースサインのように受け止める体勢を見せた。

 しかし、アラタもまた、それに対応してみせた。


 刃の角度を変えたのだ。これで、刀を挟めば相手の指は切れる。しかし、受け止めれば骨折するだろう。

 金属音が一際高々と鳴った。


 相手は、アーティファクトでアラタの刀を挟んでいた。

 アラタは抜こうとするが、筋力で劣っているらしい。抜けない。


 だが、抜けた瞬間が相手の最後の時だろう。


「悪い、慎吾。今の硬直状態の間にエリーを外へ連れ出してくれ」


「ボス……?」


「今のアラタは動けない。動けば自ら勝機を捨てるようなものだからな。だから、今のうちに行け。アラタが次の策を思いつく前に」


「俺も参戦します!」


「アラタの脇差しに片手間でやられるのがオチだよ」


 悔しそうにしていたが、男はエリーの手を引くと、駆けていった。


「集まれ、賢者の石よ!」


 エリーが唱えるように言う。

 あの生物のような不気味な物質はその一言でエリーの元へ近づいていくのだろう。


「私も撤退を考えねばならんな」


「俺はかまわんぜ。援軍が来たら俺の勝ちだ」


「それはそうだ。この勝負は先に援軍が来たほうが勝ちだ」


「俺の援軍が来る可能性のほうが高いと言っている」


「賭けるか?」


 アラタは、唇の片端を持ち上げた。


「チップは命だぜ」


「そうだな。素直に逃げようとしよう」


 アラタは急に、刀から力を感じなくなった。

 アーティファクトから変化した賢者の石で、舗装された指を刀が滑っていっている。

 そして、完全に、刀は相手の体から離れた。


「まだまだ!」


「三十六計逃げるに如かず」


 敵の男は、地面に煙玉を投げた。

 アラタはその場から距離を置く。

 そして、完全に相手を見失った。


 刀を鞘に収める。


「……次は、斬る」


 我ながら、負け惜しみのようで、アラタは少し悔しかった。


第八話 完




次回『道を違えた時』

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