格闘戦
私が選んだ道は一つ。
人質に害が及びにくい格闘戦。
炎を身に纏い、攻撃を積み重ねていく。
相手は遠距離型スキルユーザー。スキルを使う戦いに慣れきっている。肉弾戦の経験は薄い。
そのうち、アイコンタクトで、級長をしていた男に指示を送る。
彼はハッとしたような表情になると、他の人々に声をかけ、脱出を始めた。
そのうち、エリーが高々と手を掲げた。
霧が立ち込める。いや、これは一つ一つが棘を持った氷の刃。
私は、炎を生み出し周囲に走らせる。氷の刃は溶けて水となった。
「生け捕りは無理か」
エリーは溜息混じりに言うと、錫杖で二度、地面を叩く。
私は、不吉な予感を覚えて、後方へと飛んだ。
その頃には同級生の撤退も済んでいて、私もいつ逃げても良い状況にはあった。
本気のエリーが来る。
そう思い、私は呼吸を忘れた。
霧状の氷の刃が全てを切り裂き接近してくる。
暴風により部屋の荷物は荒れ狂い、氷の刃にぶつかり破片となって飛んでいく。
これではまるでミキサーの中。
炎で阻んでいるが、それを解いた瞬間にやられる。
「さて、この氷に魔力を篭めると……どうなると思う?」
背筋が寒くなった。
氷は炎でも溶けなくなり、あらゆるものを切り刻むだろう。
ならば私も、賭けにでなくてはあるまい。
その時のことだった。
換気扇の扉が開いて、覗いた手が黒い雷撃をエリーに放った。
エリーは後方に吹き飛んでいき、意識を失う。
「よう」
換気ダクトから現れた恭司が片手を振る。
「ったく危険な真似するんだもんな」
ぼやくように言葉を続ける。
「ありがとう、恭司」
私は苦笑する。
「なんかね、ピンチの時はよく助けられてる気がするわ」
「撫壁があるしな。恩に着ろよ」
そう言って、恭司は換気ダクトを引き返していった。
一先ず、エリーの暴走は止まったのだった。
第五話 完
次回『本来の歴史』




