肩書は重く
「というわけで、包囲はもう済んでいる。存分に暴れていいわ」
楓からの説明を受け、私は眉間にしわをよせた。
「人質いるじゃないですか。それも私の同級生」
「優先順位を間違えないことね。一番はあなたが無事に帰ってくること。同級生の命は二の次三の次だわ」
私は不平の顔になる。そして、口を開いた。
「それにしても監視カメラ。あれ、なんです? アーティファクトを体中に装備している」
「見ての通りね。アーティファクトはスキル強化の効果を持つ。そう簡単に倒せるとは思わないことね」
「……私への援護は?」
「……撫壁でも借りて来れば?」
「仕事でいませんよ」
「あいつも本業こっちにすればいいのにね」
好き勝手なことを言う。
「まあ、わかりました。行ってきますよ」
このままでは本当に恭司が転職させられかねない。
「本当に危ないと思ったら」
楓の一言で、私は足を止める。
「助けを呼びなさい」
私は苦笑して応じた。
「わかりました」
これだから、この人の部下をやめられない。
計算してそう思わされているのかもしれなかった。
+++
エリーは、時間の流れを長く感じていた。
翠が入店して、エレベーターを使ってこの部屋まで来る。
それだけの時間が、やけに長い。
なにか策を練っているのだろうか。
そうも思うが、策を練るには時間が足りなすぎる。
決着は正面衝突によって決まる。そう考えて良いだろう。
そうなると、部屋をもっと広くしたいような欲求にかられた。
椅子や机を、風のスキルで吹き飛ばす。
それが終わった時には、広々としたスペースが周囲にはできていた。
「化物……」
誰かが言う。
エリーは微笑む。
「そう、私は化物。エレメンタルマスターのエリー」
そう言って、彼女は徐々に強く笑った。
どこか、自棄になっているような口調に聞こえたのは、気のせいかもしれない。
「いいえ。あなたは恵梨香だわ」
扉が開いて、声が聞こえた。
そして、幼馴染二人は対峙した。
一人は炎のスキルに身を包み。一人は金色の装飾品に身を包み。
エリーの髪がさらに金色に輝く。
「何故、とは聞かないわ。失神させて連れて帰る」
「さて。できるかしら」
「できるできないじゃない。するのよ」
そう言って、炎を纏って翠は地面を蹴った。
その速度に、エリーの思考は一瞬の遅れを見せた。
第四話 完
次回『格闘戦』




