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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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力の意味

「大ちゃーん、料理できたわよー」


 恵が大声でそう呼んでくる。

 新聞を読んでいた大輝は立ち上がって食卓についた。

 その前に、焼きそばが置かれる。誰でも作れる簡単な料理だ。


 やはり、シスターの料理は美味かったなと大輝は思う。

 しかし、贅沢も言っていられないのが現状だ。


 皆城大輝はソウルイーターだ。活動時はフードを目深にかぶり顔を隠している。

 再生能力を持ち、一度に頭部を撃ち抜かれない限りは死亡しない。

 そして、大輝の死は沢山の囚われた魂の死に繋がる。

 警察はけしてそれはしないだろうと大輝はたかをくくっている。


 大輝は箸を動かし、焼きそばを食べる。

 そして、吐き気を覚えて口を抑えた。


「どうしたの? 不味かった?」


 恵が伺うように覗き込んでくる。


「いや、逆だ。美味かった」


「そう」


 恵は上機嫌に自分の分の焼きそばを食べ始める。

 彼女に言っても信じないだろう。

 沢山の囚われた魂の悲鳴が、吐き気に繋がったなどとは。


 そろそろ、吸収できる魂も限界に近づいていた。

 その時、チャイムが鳴った。


「もう、こんな時間に誰?」


 恵がぼやきながら立ち上がり、玄関に向かう。

 大輝は、嫌な胸騒ぎがしていた。


「警察だ。家宅捜索させてもらう」


 そう言って、男が入ってくる。

 間違いない、飛行能力者のあの男だ。

 大輝はほくそ笑んだ。


「飛んで火にいるなんとやら。ってな」


 手を前に伸ばす。そして、その先を魔法の手で掴むイメージを抱く。

 光の手が、大輝の手から放たれた。

 それは一直線に、男のハートに伸びていた。


 男は夜の闇の中に飛び出す。

 大輝は追う。


「なんなの? あなた、何者なの?」


 恵が腰を抜かして、戸惑うように言う。

 大輝は立ち止まり、微笑んだ。

 彼女のことは、少し好きだった。シスターの次ぐらいに。


「縁があればまた会おう」


 そう言って、大輝は駆けた。

 外に出ると、銃弾がアパートの手すりに当たり火花を散らした。

 男は、少年を抱えて銃を撃っている。


(流石に現時点で銃は分が悪いか……)


 そう思い、大輝は来た道をとって返す。

 そして、窓を開け、アパートの裏の草原に降り立った。


 赤い目が、暗闇の中で光っていた。

 雲で月が隠れて、彼女の姿は見えない。

 女だとわかったのは、スカートと、長髪のせいだ。

 百四十センチ程度の身長。シスターに似ていた。


 そのハートには、炎のデコレーション。

 面白い。炎対決だ。

 大輝は、火球を放った。


 相手も火球を放つ。

 二つの火球はぶつかりあい、空中で消滅した。

 その光が照らし出した相手の顔は、紛れもなくシスター水月のものだった。

 大輝は狼狽える。


「なんであんたがここに……」


「残念です、ソウルキャッチャー。いや、あえてソウルイーターと言いましょうか。あなたは、悪人だったのですね」


「ふ……」


 大輝は笑って、炎の嵐を相手の足元に巻き起こした。

 シスターは自分の周りに結界のように炎を纏い、防ぐ。


「力を持つ者は選ばれた者! 選ばれた者には他の者を踏み躙る権利が与えられる!」


「そんなこと……!」


「なにが違う? 人間がそれを証明している。学校のスクールカーストから起きるいじめ。社会に出てもいるマウントを取る連中。人間は猿山の時代からまったく進歩していない!」


 シスターは悔しげに黙り込む。

 今にも炎で焼かれそうなその顔を、大輝は不覚にも美しいと思った。


「人間は神が自分を模して土から作られました。人間は神の子。創造主は優しさも与えたでしょう」


「確かに優しい人もいる。けど、この世の中はそうじゃない奴が一杯で窮屈すぎる。一度、破壊しないといけないんだ!」


 シスターは目を見開き、そして閉じた。そしてしばし考え込んだ後、手を前に差し出した。

 大輝は戸惑う。炎が押し返されている。


(俺の適正を、シスターの適性が上回っている……?)


「力を持つ者には責任が伴う。あなたは破壊にその力を使いました」


 シスターが淡々と言う。


「なにが悪い。世界を変えるためには少しの犠牲は必要だ。なにより、これは破壊の力でなくてなんだ? シスター、あんたが神から授かった炎は、破壊の炎でしかないんだよ」


「違う!」


 炎が、一層押し返される。


「翠さんは言ってくれた。これは破壊の力でなくて守るための力なのだと」


 炎は既に大輝の傍にまで近づいてきていた。顔を隠していたパーカーのフードが焦げる。


「力をどう使うもその人次第。ならば、私は天から授かった力で守ります!」


「くそったれええ!」


 大輝は力を込めた。

 炎が少し押し返される。

 そして、空中で対消滅した。


 しかし、シスターの周囲には既に次の炎が現れている。舞うように、囲むように。

 その赤い瞳は、決意に満ちていた。


「さあ、私と戦いますか、ソウルイーター! 銃を持った部隊も近づいてきていますよ!」


 炎が走る。走って、大輝の周囲を囲む。残った退路は背後だけ。

 大輝は、苦笑した。


「あんたとの生活。悪くはなかった」


 シスターは少し目を見開いたが、すぐに苦笑した。


「私もです」


 大輝は駆け出した。炎の抜け間を通って。

 そして、駆けに駆けた。

 これは別れだと。後ろ髪ひかれるような思いで。

 銃声が鳴り、立ち止まる。

 足を撃ち抜かれていた。


「行き止まりだ」


 空から男が降りてくる。

 男は二人の女性と一人の男性と一人の少年を抱えている。

 四人は大地に降り立った。

 女性が、一歩前に踏み出す。

 ゴテゴテしていると言ってもいいハートの装飾。

 ソウルキャッチャーだ。


「やっと万全な状態で会えたわね、ソウルキャッチャー。いや、ソウルイーター」


 大輝は巨大な手を周囲に発生させる。

 それは、魂が吸収されそうになった時の身代わりにもなる。


「決着をつけましょう」


 足の痛みは麻痺している。

 ただ、満足に走れないだろうな、という実感がある。

 手で牽制しているうちに治療する必要があるだろう。

 皆城大輝は、この時点でも、捕まる気は毛頭なかった。

 決戦が、行われようとしていた。



二十三話 完

次回『進化』(予定)

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