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秩序の手合い

 シンシアは麻薬常習者の子供として産まれ、荒れた環境で育った。

 それでも両親を信じた彼女を、両親は五千ドルで売り払った。


 そして、信じてついていった師は、彼女を薬漬けにした。

 笑えるほどの無秩序な人生。


「それでも、君は秩序ある選択をした。何故かな」


 男装の麗人がいつの間にか目の前にいた。

 周囲は暗い。

 夢か、と思う。


「仲間を守りたいと思うのは当然じゃないですか」


「仲間? お前に仲間など作れるものか」


「……父さんの言葉を引用するのはやめてくださいよ」


 シンシアは胸に痛みが走るのを感じた。

 彼女は、なにをしたいのだろう。


「私は皆を仲間だと思っています。それだけでいいんです。たとえ気持ちがすれ違っていたとしても」


「なるほどねえ」


 麗人がしばし考え込む。そして、頷いた。


「いいでだろう。僕の力を与えよう」


「あなたの、力……?」


「あなたの力は秩序を守るために使われている。くれぐれも、それを忘れないように」


 そこで、目が覚めた。

 私達は、大地に降り立っていた。


 車からはガソリンが漏れ、爆発の瞬間はそう遠くないように思えた。


「やりすぎたな」


 大輝が、どうでも良さげに言う。


「まったくです。とりあえず、怪我人を運びますか?」


「いや……どうしたものか。そうだな、運ばぬわけにはいくまい」


 大輝は少し悩んだ後に言う。


「ただ、運ぶのは俺に任せてくれ。お前は、開かない扉なんかがあったら壊してほしい」


「わっかりました」


 意識のない敵を運んでいく。

 そのうち、その作業にも終りが見えた。


「疲れたな。あいつらどーなってるだろうなあ」


「あ」


 シンシアは思わず間抜けな声を上げる。


「すっかり忘れてた」


「追いかけるかね」


「待った」


 助け出した男が一人、体を起こした。


「助けられて心苦しいが、このままお前らを行かせるわけにはいかない」


「ふうん……熟睡した俺は強いぜ?」


「それでもだ」


 シンシアは、手を振った。

 コンクリートの地面に人が落ちそうな大きな溝ができる。


「私は、戦いたくありません。それでも、あなたが戦うというならば……」


 男の怯えた瞳をまっすぐに見る。


「私は、容赦しない」


 男は、力が抜けたようにその場に座り込んだ。


「行きましょう。飛行スキルは私が持っているので」


 そう言って、大輝の手を掴んで飛び始める。


「なんだよ今の威力。オーバードーズってそんな強いのか?」


「禁断症状も酷いからオススメできませんよ。賢者の石のほうが有用です」


「そうだな。俺も賢者の石で武器作ってもらおうかね」


「テストがあるみたいですよ」


「テストは苦手だ」


 大真面目な口調で言われたので、シンシアは苦笑した。



第八章 完


次回『合流』

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